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ベンゾジアゼピン情報センター管理人
医師および薬剤師など医療専門家のみなさま、こんにちは。
アメリカ食品医薬品局が2020年9月23日、FDA医薬品安全通信にて「ベンゾジアゼピン薬のブラックボックス警告更新要請」を発出しました。
ブラックボックス更新要請ではついに、ベンゾジアゼピンを「処方通り服用しても、数日~数週間の連用で身体依存を形成する」可能性があること、「離脱症状の継続期間が数年におよぶ」場合もあること、「急速な減薬により、発作などの離脱症状を引き起こし命にかかわる」こと、したがって「すべての患者に適したベンゾジアゼピン漸減スケジュールというものはなく、患者ごとに漸減計画を作成し投与量を徐々に減らす」必要があることを全米の医療者に要請しました。
厚生労働省においても、令和2年3月にマニュアル『重篤副作用疾患別対応マニュアル ー ベンゾジアゼピン受容体作動薬の治療薬依存』を発表しました。ここで、精神依存(いわゆる薬物依存症)と身体依存との違いが明確に述べられており(11ページ)、「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の治療薬依存は、身体依存が主な問題となります。」(7ページ)としています。
さらに、衆議院厚生労働委員会でのいさ進一議員の質疑を受け、武見厚労大臣は見直しが必要であるとし、その漸減方法(漸減ペース)について現在「4分の1づつを4~8週間かけて行う」としているモデルケースを、より長期(数か月~数年以上)に及ぶ可能性について『重篤副作用疾患別対応マニュアル』を改訂中とのことです(2024年5月現在情報、公明党厚労部会議員より)。
米国および日本の規制当局が、ベンゾジアゼピンの身体依存性とその緩徐な漸減の重要性、急減薬により命に係わる離脱症状を引き起こす可能性を公式アナウンスしたわけですから、先生方は患者さんのベンゾジアゼピン退薬方法に対し相応の慎重な対応が求められます。
FDA『すべての患者に適したベンゾジアゼピン漸減スケジュールというものはなく、…』
厚労省『患者さん個人に合わせて徐々に減量していく方法が中心ですが、減量の途中で離脱症状がでた場合など、医師との相談の上で、減量のやり方を微調節していく必要があります。』
一般的な漸減法として紹介される「10~20%ずつを段階的に4~8週間かけて」の減量で退薬できる患者さんも多くいるでしょう。
しかし、身体依存重度の場合は数年以上かけて微量ずつ漸減せざるを得ない人もいます。また厚労省が述べるように、減量フェーズによっては微調整(例:後半に大きくペースダウンする)の必要性もしばしば起きます。
非常に個人差が大きく、そうは言っても身体依存重症度を計測する医療技術はまだ無く、患者さんの離脱症状の出具合を目安にするしかありません(「ベンゾ離脱症状が重症になる確率は?」を参照ください)。
そうした重度の人々のために、米国のNPO団体「Benzodiazepine Information Coalition(ベンゾジアゼピンインフォメーションコーリション)」のメディカルアドバイザリーボードによって作成された「ベンゾジアゼピンテーパリング戦略とソリューション【最新版】」で、『マイクロテーパリング』と呼ばれる超微量ずつ減量していく手法について、注意点なども含め詳細に書かれています。必ずお読みください。A4で5ページほどですから、すぐに読めると思います。
※ 拙書『ベンゾジアゼピン薬(睡眠薬・抗不安薬)の安全な離脱方法』
『マイクロテーパリング』手法の一つである水溶液タイトレーションやドライマイクロテーパリングの作業手順について、写真と図を使い、詳細に解説しております。ぜひお手に取ってみて下さい。
※ NPO団体Benzodiazepine Information Coalition(略称BIC)について。
日本はもちろん欧州他国にもない活動量を誇る、ベンゾジアゼピンの危険性について啓蒙する米国のNPO団体です。BICの記事を読んでいけばわかりますが米国のベンゾジアゼピン薬の被害状況は日本と同様、世界でもトップクラスであり、実名・動画・遺書を公開した自死者も何人か出ています。 例えばこちら、そしてこちらをご覧ください。
近年、FDAに対してFOIAリクエスト(情報公開法にもとづく情報開示請求)を提出しており、2020年9月24日にFDAからその回答(※FDAからの回答文献)を得ました。
(FDAからの回答一部抜粋)
DPV also identified several themes in the FAERS reports, including: lack of physician education/knowledge regarding benzodiazepine prescribing, lack of patient education by the physician at the time of prescribing, or a prescribed tapering schedule that did not prevent withdrawal symptoms (i.e. taper was too rapid).
(訳:安全性情報管理部門は、FDA有害事象報告システムにおいて、ベンゾジアゼピン処方における医師への教育または医師の知識欠如、処方時の医師による患者教育の欠如、離脱症状を防ぐための漸減法の欠如(例:早すぎる減薬など)等、いくつか問題事項も特定することができた)
DPV :安全性情報管理部, FAERS:FDA有害事象報告システム
※ FDAからの回答文献
「ベンゾジアゼピンの使用とその誤用、乱用、身体依存、離脱症状とその発生率、および致死について: 疫学研究と医薬品安全性監視に関するレビュー」. 米国FDA, 保健福祉省, 公衆衛生局. 2020年9月24日.
Department of Health and Human Services, Public Health Service, Food and Drug Administration. "Integrated Drug Utilization, Epidemiology and Pharmacovigilance Review: Benzodiazepine Use, Misuse, Abuse, Dependence, Withdrawal, Morbidity, and Mortality". Date: 9/24/2020.
※ BICメディカルアドバイザリーボードメンバー
・カリフォルニア大学サンディエゴ校精神科名誉教授ダニエル・クリプケ医師
・ブリティッシュコロンビア大学医学部名誉教授ジム・ライト博士(臨床薬理学者) → 2020年7月インタビュー
・ヴァンダービルト大学精神科准教授レイド・フィンレイソン医師
・ジョセフ・ウィット・ドーリング医師、精神科医(元FDA精神科薬部門医務官)
・米国精神医学会精神科医幹部会議長デニス・セニク医師、精神科医
・セントメアリー大学心理学教授キャサリン・ピットマン博士 → インディアナ州講演
・クリスタスヘルス社チーフメディカルオフィサー(CMO)ハロルド・ゴッドリーフ医師
・サウスカロライナ医科大学 精神科医、依存症専門医パトリシア・ハリガン医師
非ベンゾジアゼピン薬のゾピクロン(商品名アモバン)ユーザーであった。2015年後半体調悪化し、さまざまな検査で異常なしであったため、食事内容を立て直しお酒などリスク因子について調査しひとつひとつ排除していく。その過程でベンゾの危険性と、非ベンゾジアゼピンもベンゾファミリーのひとつであることを知り減薬を決意。 中途半端な知識から最強ベンゾのひとつフルニトラゼパム(商品名サイレース、ロヒプノール)に自己判断で置換(最大の失敗)。フルニトラゼパムの急減薬で生き地獄のような離脱症状を経験する。その後フルニトラゼパム再服薬および増薬(ジアゼパム10mg)が奏功し”ある程度”安定化。主治医の協力のもとマイクロテーパリングにて減薬を始める(2017年2月)。 フルニトラゼパムの減薬は終了(2020年1月)。 現在ジアゼパムを減薬中。本職はエンジニア。
減薬記録はこちら。
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