書籍『ベンゾ系睡眠薬・抗不安薬の安全な離脱方法 改訂版』(A5版284ページ)販売中)

    ベンゾジアゼピン ― その氷山の一角

    原文:THE TIP OF THE IATROGENIC BENZODIAZEPINE ICEBERG

    著者:

    ニコル・ランバーソン 医師アシスタント Nicole Lamberson, PA

    投稿:Mar 19, 2019

    長い人生経験において「​​氷山の一角に過ぎない」という格言は言葉に言い表せない気づきを与えてくれます。最初に思っていたよりもはるかに大きく、複雑な問題に突き当たるときは特に。私の経験では、医学は「医原性ベンゾジアゼピン氷山」の真の大きさを測るために、まだ水中に入ることすらせず眺めているだけです。私に関して言えば、わたしのボートは転覆し今なんとか海面に頭を出しながら生き続けています。処方されたベンゾジアゼピンの悪影響を受け、そして離脱後も10年近く経ってさえいまだに深刻で長期にわたる神経傷害に耐えながら生活しています。
    ベンゾジアゼピンを中心としたさまざまな非営利団体や意識啓発団体と8年のあいだ、徹底的な調査や無数の被害者患者の支援、ボランティア活動(医師、PA、NPなどと一緒に)を行って、私はついに結論に達しました。「……精神科医はベンゾ離脱症状に備えて準備ができておらず、この物質がもたらす複雑な状況から患者を治療することももちろん、指導することさえできない」
    ベンゾジアゼピンの啓発活動に関わっている仲間の1人は憤慨してます。私たちの仕事の性質上、私たちは(自分自身にの苦しみに加えて)被害者たちの絶え間ない絶望、耐え難い苦しみ、そして数え切れないほどの自殺を見聞きする。そしてそれらが不注意な離脱行為(推奨または許容されるよりもはるかに早い減薬で重症遷延性離脱症候群に患者を引き込む)によって何度も何度も引き起こされる。
    リスクがあるとすでに認識が確立されているにもかかわらず、ベンゾが深刻な被害を引き起こす可能性を否定するのべつ幕無しな意見に対して、しょっちゅう丁寧に反駁し押し戻さなければなりません。私達は時々この問題に疑いを持っている人たちを、どれだけ簡単に納得させられたらなあと夢想します。さまざまな啓発団体が毎日弾幕のように受け取る電子メールを共有しあっていますが、その中に単に「ヘルプ ミー」という2つの単語で構成されているメッセージがありました。できたら、勇敢な方には個人情報をベンゾジアゼピンヘルプラインとして宣伝させていただきたいです。
     
    2018年10月、ヘラルドトリビューンのコラムニストであるキャリーシードマンは、この懸案をうっかり引き受けてしまいました。チーフコラムニストに昇進した彼女は、電話、電子メール、またはSNSで連絡を取ってきた人に必ず返信することを公表することとなりました。彼女はその約束を100%遵守しましたが - 個人名等まで開示を許してくれたケースはたったの2回です。
    シードマンの最初の記事“ベンゾ離脱。医療サポートは一切なし …は、その2回のうちのひとり、ベンゾジアゼピンによって傷害を負った女性であるキャロライン・チャンブリスへの取材から、コラムとして掲載されました(キャロラインは36年間ベンゾを服用していました)。まだあまりベンゾについてよく知っていなかったシードマンは取材中にこう言っています。「私がこの問題について書いているとき、こんな話をある母親から聞きました。― “じつは息子が精神障害の治療を受けていてXanax(アルプラゾラム)処方されたんですよ。それから一週間以内にその害に気づき、息子からそれを取りあげたわ。キャロラインと話すまではベンゾの危険性なんてまったく知らなかった。ぎりぎり助かったわよ」。
    シードマン連絡先情報は彼女のコラムの下にはっきり載っており、ベンゾ薬害を受けた人は簡単に見つけるでしょう。そして破壊的なベンゾジアゼピン離脱症状を患う全米および他の国々からまで電話や電子メールが殺到し、シードマンをして別のベンゾジアゼピン関連コラムを発行するように動機付けました。 
    「ほとんどが離脱しようとして苦痛を受けている人々からのものでした。わたしができることはほとんどありませんでした…だって私はジャーナリスト。医療関係者でもこの分野の専門家でもありません。残念ながらというか、彼らのストーリーは非常によく似ていました。何らかの理由で薬を処方され(通常は曖昧な理由で)、しばらくの間薬はよく効きますが、次第に二次症状を患いそれに対して医師は別の原因だと診断する。離脱中のひとは絶望的な様子でした。」
    シードマンの2番目のコラムで彼女は「サンディエゴから3,000マイル(訳注:約4800km)も離れた小さな町のジャーナリストと連絡を取ってでもなんとかしたい被害者がいる。このことがこの問題の深刻さをハッキリ物語っている」と結論付けました。その声明はベンゾジアゼピンに関する現実を簡潔に要約しています;このようなヘルスケアシステムの失敗の負担を一般人である患者が負っているのです。現在までに、シードマンは100人以上の人々から話を聞きました。これは全体像のほんの一例にすぎません。ベンゾジアゼピンの適切な処方と説明の欠如にもかかわらず、あらゆる処方薬の中で最恐な離脱症状を起こしているという医学教育がないのです。JAMA Network Openの調査によると、ベンゾジアゼピンの処方は2003年から2015年にかけて2倍になったことが明らかになっています。私のTwitterフィードに次のような質問が投稿されました。「50年以上経っても何も学べないとはどういうことか!?」
     
    シードマンが電話やメールでなにもできなかったとき、向こう側にいる被害者たちはどこへいくのでしょうか?インターネットです。 ベンゾバディのようなオンラインフォーラムやサポートグループは、毎月何百万ものページインプレッションを稼いでいます。それらは意味のあるサポートを提供する唯一の場所だからです。イギリスとオーストラリアにはベンゾジアゼピン離脱支援サービスがありますが、自国の被害者のサポートだけでも十分な資金・人材が足りないため外国人は立ち入り禁止です。完璧な世界では、モデル化されたサービスが至るところに現れるでしょう - 代わりに、投入されたファンド(資金)の範囲内で入場禁止となるでしょう。こうしたサービスと提携している離脱アドバイザーがベンゾジアゼピン患者を助ける何十年もの貴重な経験を持っているので、これは残念なことです。
    訳注:ベンゾバディの一部を日本語に翻訳しているブログはこちら「アムの睡眠薬減薬日記」。ブログ主はすでに断薬済み
     
    オンラインのベンゾジアゼピンコミュニティを読むだけで多くを学ぶことができます(Psychiatric Timesの記事の著者が行ったように)。ベンゾジアゼピン患者グループは経験的に安全な離脱方法に精通しており、将来の多くの船(服薬者)の沈没を防ぐ方法と、いかにして溺れかけている人に救命具を投げるかに関する情報をかなり持っており貢献することができます。そして、私たちが絶対に絶対に絶対に看過できないことは、次の50年間もまたこの問題をそれが存在しないふりをしながらやり過ごすことです。

    (翻訳&注釈:ベンゾジアゼピン情報センター 管理人


    著者:ニコル・ランバーソン 医師アシスタント  Nicole Lamberson, PA
    ニコル・ランバーソン 医師アシスタント  Nicole Lamberson, PA

    バージニア州在住、医師アシスタント(訳注:医師の監督の下に簡単な診断や薬の処方、手術の補助など医師が行う医療行為の一部をカバーする医療資格者。北米、英国などで導入されている)。2000年ジェームズマディソン大学で学士号を取得、2004年イースタンバージニア医科大学でMaster of Physician Assistantプログラムを修了。緊急医療と産業医の研修中にベンゾジアゼピン離脱症候群による重篤な疾患が原因となり退職。

    2005年、ニコルは仕事のストレスのためにザナックス(ソラナックス・アルプラゾラム)を処方される。 その後5年間、典型的なベンゾジアゼピン離脱症状の多くを発症し、複数の精神科医がこれを精神疾患と誤診。そのためベンゾジアゼピン薬2剤、Zドラッグ、抗うつ薬、抗精神病薬などの多剤処方に。
    2010年、ある雑誌に書かれたベンゾジアゼピンによる同様の体験記事を発見し、自ら調査を始め自身の症状がベンゾジアゼピンによるものだと認識に至る。だが当時スロー減薬の重要性に関する情報が少ないことにより、依存専門病院で短期間で抜かれ現在まで続く重度遷延性離脱症候群をもたらした。
    体調が許す限りニコルはベンゾジアゼピンの危険性とその重度遷延性離脱症候群について執筆し、ベンゾジアゼピンインフォメーションコーリションでの活動を含む啓蒙活動を行っている。ベンゾジアゼピン離脱症候群の生の体験を伝えつづけることと同時に、料理や献身的な家族との時間を楽しんでいる。