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Benzodiazepine Information Coalition, W-BAD operation team
YouTube動画(字幕翻訳付)
司会「2020年世界ベンゾジアゼピン注意喚起の日(W-BAD)、スペシャルポッドキャスト・パート2にようこそ。
パート1では、アンジェラ・ピーコックにインタビューしました。 アンジェラのベンゾジアゼピン服用と離脱体験について、それから彼女が製作に関わった、7月11日午後1時に特別上映される映画「Medicating Normal」について語りました。インタビュー内容はマッドインアメリカ(https://www.madinamerica.com/)であらためて聞くことができます。
このポッドキャストはW-BADリードオペレーションを行ったニコル・ランバーソンの奮闘あってこそはじめて実現したことを強調させてください。
さてここからは、処方薬により傷害を受けた患者に20年以上携わってきた心理療法士、フレデリック・ベイリスから話を聞きます。おっとその前に、臨床薬理学者であるジム・ライト博士と話をする機会を得ました。これはすごいことです。
ジム博士はブリティッシュコロンビア大学の麻酔学、薬理学、治療学、そして医学部の名誉教授です。ジム博士のご経歴を述べますと…1968年にアルバータ大学でMD(医師資格)を取得、1976年にミゲル大学で薬理学博士号を取得、内科および臨床薬理学の専門家です。セラプティックレターの編集長でありPLoSOneとコクランライブラリーの編集委員。主な研究対象は、処方薬の適切な使用法、臨床薬理学、臨床試験、システマティックレビュー、メタ分析とナレッジに関する問題などです。ジム博士、ようこそ。 本日はマッドインアメリカのポッドキャストにお越しいただきありがとうございました。まず最初に、あなたの経歴について少しお聞きしたいのですが、あなたを臨床薬理学者というキャリアに導いたのはなんでしょうか。」
ジム博士「はい、医学部では処方薬に興味を持ちました。患者さんが抱えていた問題の多くは、服用している薬を調べることで多くの問題が解決できることに気づいたのです。そして、服薬を開始することよりも、服薬を止めることが問題解決になることがしばしばでした。
そこで、モントリオールで内科のインターンシップをしていたとき、私はミゲル大学で薬理学の博士号を取得することにしました。そうして薬理学の理解を深めながら臨床スキルを維持してきました。当時、ミゲル大学には強力な臨床薬理学プログラムがありました、私はキャリア全体を通して臨床薬理学を追及してきました。
ほとんどの医師はもちろん、薬剤師さえも、薬理学についてあまり深く理解していないことは知られていません。たとえば薬剤師は薬を分類したり、あらゆる薬を案内する、などは非常に得意ですが、薬の効果の複雑性を実際には理解していません。非常に複雑な分野なのです。薬について知れば知るほど、それを毎日は服用したくなくなるでしょう。本当に人々がトラブルに巻き込まれる分野です。人々は単純に受け入れ、信頼し、すぐ服用してしまいます。 テレビや車を購入する時は驚くほど念入りに調査するのに、薬となるとたいして調べもせずに服用してしまう。まさに今日の医学における大きな問題は、人々が日常的に服用している薬が脳に永続的または深刻な影響を及ぼしていることだと思います。」
司会「何度かそのフレーズを使っていましたね。とても興味深かったのですが、❝薬について知れば知るほど、それを毎日は服用したくなくなる❞というフレーズを薬理学者が述べるのを聞いたことがないのですが、この概念は薬が体に及ぼす影響についての博士自身の知識から来るのでしょうか。それとも臨床で得られた患者さんたちの症例からでしょうか、もしくは両方ですか?」
ジム博士「両方です。大きな効果をもつ薬であるならば、潜在的に害がない薬というものはありません。したがって薬を使うときは常に、ベネフィットと潜在的な害(potential harm)を比較検討する必要があります。潜在的な害を見ると、それらはしばしば深刻なものがあります。それは医薬品各条を見ればすぐわかりますよね?有害作用の項目です。そこを読んだら、薬を飲もうとする人は少なくなると思います。特に毎日薬を服用することで多くのダメージを与える可能性があります。」
司会「わたしも経験あるのですが、医師が処方するとき、❝心配しないでください。それは稀なケースであり、非常に少数の人々だけに起きます❞と言われます。しかし、有害作用リストを読むことはインフォームドコンセントにとって非常に重要ですよね?」
ジム博士「もちろんです。稀なケースのものも多いですが、命にかかわりますから。誰もが命にかかわる副作用なんて嫌でしょう。」
司会「ありがとうございます。博士はセラプティックイニシアチブ(処方薬の適正使用について調査と教育に携わるブリティッシュコロンビア大学の組織。1994年設立)のメンバーですが、その組織についてと博士の役割を教えてください。」
ジム博士「キャリアの後半で、わたしはセラプティックイニシアチブのマネージングディレクターになりました。1994年のことです。そのことが私をシステマティックレビューと呼ばれる研究分野に導き、薬の利点と害について調べることになりました。結局25年間マネージングディレクターを務めました。さらにセラプティックイニシアチブ刊行のセラプティックレター編集長でもありました。セラプティックレターは主に処方医のために書かれたもので、Webで無料公開しています。数か月ごとに新記事が更新されます。誰にでも役に立つ情報がたくさんあります。セラプティックイニシアチブには利益相反はありません。設立当初からリサーチを行う研究者は完全に独立していて、製薬会社やその他から何も得ていません。
昨年10月に私は辞任する時が来たと判断しました。 だから今はもう共同マネージングディレクターではありません。 まだグループに関わってはいて運営グループにいますが、もうマネージングディレクターではありません。セラプティックレターの編集長も退きました。それは大きな仕事なのですが。今年の1月からトム・ペリーが編集長になっています。大学も引退して、いまは名誉教授ということになっています。ただ、コクラン高血圧症グループの編集長を務めているので、そのシステマティックレビューの研究は続けています。それから週に一日だけクリニックで患者を診ています。」
司会「セラプティックレターについて質問させてください。消費者として、薬に関する公式情報、つまり添付文書ですね、を読んでもわたしたちにはよく理解できません。そして、どのような状態であれ服用した患者から吸い上げた情報はほとんどなくて、製薬会社の見解にもとづくものだけになっています。セラプティックレターが面白いと思ったのは、製薬会社からの情報だけでなく、事例報告も含まれている点です。米国やカナダではそうだと思いますが、英国では確かに医師は薬物使用に関する事例報告に難色を示す傾向があるため、セラプティックレターはとても興味深いと思いました。特定の薬物について、その作用機序を理解することは、かなり基本的で重要だと思います。ですから、博士がセラプティックレターで事例報告を扱うのが新鮮でした。」
ジム博士「大したことではありません。しかし、たとえば抗うつ薬からの離脱について、エビデンスはあまりありませんよね? ありません。離脱という分野での臨床試験はまったくないか、もしくはあまりありませんよね? したがって、その分野では、最善のエビデンスは事例証拠になります。また副作用が発生した場合も、ランダム比較試験からはあまり良い情報が得られないことがよくあります。ですので観察研究と症例を見ていく必要があります。
しかし一般的には、私が25年間にわたってセラプティックイニシアチブで学んだことですが、規制当局が医薬品を市場に出すために使用したエビデンスを調べていくと、許可された医薬品のベネフィットが害(harm)を上回るというエビデンスの乏しいことに、相変わらずいつもショックを受け続けています。多くの場合、ベネフィットはプラセボに比して統計的に有意であるものの小さく、臨床的にはそれほど重要なものではありません。にもかかわらず、乏しいエビデンスのまま市場に投入され患者に処方され続けています。ほんとうに驚きます。これが25年間でもっとも大きな学びです。
もうひとつは、私たちが以前考えていたよりも薬に関連する害がはるかに多いことを学びました。 多くの人が考えるよりもはるかに大きいと理解しています。」
司会「なぜ薬の害がそんなに大きいのでしょうか。 薬には潜在的に悪影響(adverse effect)がありながら、それについて厳密な科学的理解が足りないのは、臨床試験方法が正しくないのでしょうか?それとも、悪影響データを本来の方法で取得できていないのでしょうか。何十年も処方され続けてなお今も、私たちが薬の安全性についてよくわかっていないのはなぜでしょうか。」
ジム博士「これは主に長期的な試験がほとんどないためです。 ほとんどの薬は短期間の試験のみで市場に出回ります。 本当にエビデンスは短期間のものしかないのですが、臨床では実際に何が起きるかを知り得ます。人々が実際に薬を長期かつ毎日使いますからね。長期使用でのベネフィットと害の対比に関するエビデンスはありません。長期的試験をするインセンティブが製薬会社にはありませんから。ですから、政府が長期試験に資金を提供して推進する必要があります。そうすればベネフィットと害を知ることができます。」
司会「そうですね、長期試験は技術的に難しく非常に費用がかかると私も思います。 何十年も対象者をフォローするのは難しい。そうですよね。」
ジム博士「はい。しかしさきほど言ったように、事例を調べるのであれば管理データベースで追跡するだけですからコストはあまりかかりません。私たちは入院と死亡を追跡しました。莫大な予算をかけずに大規模な長期トライアルを行うことができ、対象をランダム化するのにそれほど費用はかかりません。なんらかの答えを得るためにランダム化する、というのがキーになります。」
司会「ありがとうございました。では本日は世界ベンゾジアゼピン注意喚起の日なので、ベンゾジアゼピンについてお聞きしていきたいと思います。博士はベンゾジアゼピンについても理解がありますが、ベンゾ薬に興味を持ったのはなぜですか。」
ジム博士「私たちはかなり早い段階でベンゾジアゼピンについての記事を書きました。たしか1996年のことです。当時、ブリティッシュコロンビア州で何人ベンゾジアゼピンを服用しているかを調べようというアイデアがあって、その結果、非常に多くの長期服用者がいることがわかり非常に驚きでした。
さらに調査するにつれ、やはりエビデンスに乏しいことや、だいたい不眠症で、ええ、睡眠のために服薬していることに気づきます。しかし、こうした人々に対して行われた治験期間はかなり短いものでした(the trials that were done in those people were fairly short)。有効性についても、1~2週間といった短期間であれば多少は効果があるが、プラセボに比べてさほど大きいものではなかった。しかし結局、そうした治験結果にもとづいて市場に出ました。
のちに一連の研究論文の結果として、ベンゾジアゼピンは短期的使用に限るべきということになりました。そうすればベンゾジアゼピン問題は起きないでしょう。しかし長期使用すれば耐性がつきます。効かなくなります。さらに私たちは長期使用による毒性(toxicity)についても多くのことが分かってきています。」
司会「ではどうすればよいでしょうか。ベンゾジアゼピンの適正使用についてですが、短期的使用に限るべきというガイダンスについては私も知っているのですが。どんな状況で適切であり、または適切でないのでしょうか。」
ジム博士「私がベンゾジアゼピンを処方する唯一のケースは緊急治療としてです、❝緊急治療❞がいちばん妥当な言葉だと思います。患者さんには、定期的に服用すると効かなくなるだろうと説明していました。 しかし、緊急治療としてならば効果的であり続け役に立ちます、と。たとえば睡眠であれば月に3、4回の使用であれば役に立ちます、といったように。患者はそういったことを知る必要があり、知ったうえでそのように使えば問題は起きません。」
司会「さきほど抗うつ薬やベンゾジアゼピンからの離脱問題について言及なさいました。科学的厳密性があまりなく懸念される分野であると。特にベンゾジアゼピンからの離脱において、液体タイトレーション法(参考:水溶液タイトレーションの方法)でゆっくり減薬する方法についても書いておられました。博士の意見としては、ベンゾジアゼピンを中止するにあたって液体タイトレーション法は他のメソッドよりもより成功率が高いのでしょうか。それとも低いでしょうか。」
ジム博士「過去10〜15年間に私はアシュトン教授に頻繁に会い、ベンゾジアゼピン問題と英国の集団訴訟について学びました。そして患者のベンゾジアゼピン離脱を手助けすることに興味を持つようになりました。いつもアシュトンマニュアルの原理原則を使ってきました。それからこの問題を抱える患者の数が増えていることも知りました。
私が学んだことは、ベンゾジアゼピン離脱は非常に難しいということです。 私がこれまでに手助けした患者さんは、人生で起きた最悪のこと、とみな言います。
その方法は、原則として2週間に10%以下ずつ減量する、ですが、患者に合わせて調整する、というもうひとつの重大原則があります。私たちは患者さんそれぞれにとっての最善策を考える必要があります。患者さんによっては、極端に微量ずつの減薬を行う必要がある人もいるということです。実際、液体タイトレーション法を紹介してくれたのは患者さんでして、インターネット上で方法を公開し離脱を成功させた人たちです。
やり方としては、まず薬剤標準量を液体に入れて懸濁液を作成します。薬物は水に溶けません、懸濁液です(訳注:固体粒子を攪拌してつくった液体のこと)。そこから長い時間をかけて少しずつ懸濁液を減らしていきます。ですが、注意が必要で非常に慎重に始める必要があります。というのも、うまくいく人もいればいかない人もいます。全員にベストだというわけではありません。」
司会「急に止めた人と徐々に減薬していった人との違いについてお聞きかせください。特に遷延性離脱症状群や断薬後も続く離脱症状の観点からですが、ご存じのように、症状を安定させるために再服薬する必要があったりしますね。やはりタイトレーション法は良い方法なのでしょうか。」
ジム博士「成功率では、タイトレーション法は間違いなく優れています。 ゆっくり減薬すれば成功する可能性がはるかに高くなります。 急減薬や一気断薬ですと再服薬せざるを得ない可能性が非常に高いです。
しかし、断薬済みの人がいてその人が回復していたら、人々はその人のやり方に師事したいと思ってしまう傾向があります。その断薬済みの人がゆっくり減薬したか急減薬したかどうかにかかわらず、です。結局どのくらいの減薬ペースであれば遷延性離脱症状群が発生しにくくなる、といったエビデンスがないので研究調査が必要なのです。ベンゾジアゼピンをやめることによる長期的有害影響といった現象について、もっと研究する必要があります。」
司会「繰り返しになりますが、米国とカナダは英国と非常に似ていると思います。特にここ英国では、一般開業医やかかりつけ医は依存性のある薬、とりわけベンゾジアゼピンはゆっくりとした漸減が必要であることをあまり分かっていないようです。抗うつ剤もそうですね。
しかし、私が話した多くの医師たちは、すぐにやめても良いという、よろしくない指示を患者にしていました。指示に従った患者は苦しんで医師のもとへ駆け込みます。すると原疾患の再発と言われる。処方した薬に問題があるのでは?と考えるのは、医師達にとって最後のオプションであるようなのです。このような医療機関に私たちはどのようにアプローチしたらよいのでしょうか。向精神薬は徐々に漸減する必要がありますが、でもほとんどの場合、数か月とか、ええと、数週間かけて半分ずつまたは4分の1ずつ減らしていく、というのが現在のデフォルトになっていますが、そうすると一部の人々には恐ろしい問題が起きますよね。」
ジム博士「同感です。ベンゾジアゼピン(問題)はかなり取り上げられてきました。ブリティッシュコロンビア医学部はウェブサイトでアシュトンマニュアルを提供していますし、ベンゾジアゼピン問題についての理解が高まっています、と思いたいです…セラプティックイニシアチブでは長い間その処方が減っているかをモニターしてきましたが、減ってはいません。むしろさらに普及しています。頭痛の種です。長期間服用すると良くない薬であるという認識は少し増えてきました。」
司会「ベンゾジアゼピンをタイトレーション法で減薬していく場合のハードルはなんでしょうか?抗うつ剤には液体製剤のものがありますね。ベンゾジアゼピンはどうでしょうか。一般処方で手に入る液体製剤または似たような別のものはありますか。そしてそれらはベンゾジアゼピン離脱に役に立ちますか?」
ジム博士「便利な液体製剤があるかどうかについて私はよく知りません。基本的に液体タイトレーション法は自分で行う必要があります。カプセルで正確な量の薬を準備する調合薬剤師がいます。ええ、普通は調合薬剤師を通して行うことですよね。ベンゾジアゼピン減薬において、原則としてはもし可能であればジアゼパムに置換します。ジアゼパムは作用が長く、用量が小さい錠剤があるので、徐々に減らすという点で便利です。しかし、あなたが知っているように、大切なのは本人が知識を身につけ、自分にとって何が最善かを見つけることだと思います。電子天秤で錠剤を測り、少量ずつ削っていくのが非常に得意な人もいます。減薬を行うさまざまな方法があるということです。」
司会「私がこの問題に気づいたとき、医師が漸減の必要性やタイトレーション法について知らないので、患者がみんな自分でこの作業を行っていることにとても驚きました。残念ながら、そうした患者に協力的でない医師もいますね。博士のように、漸減の必要があることを知っておりアシュトンマニュアルから引用したり教えたり、励ましたり、といった主治医でなければ、患者は自分でやるしかない。」
ジム博士「医師は協力する必要があります。離脱過程ではサポートが必要です。事実として、家族や配偶者など誰かしらのサポートがあれば成功率は高いです。このことは、ベンゾジアゼピンからの離脱がどれほど困難かについてのひとつのメッセージだと思います。つまり、この問題を理解できない医学的素人のサポートが必要なわけです。ええ、ですから、あなたの言うとおりだと思います。多くの医師はまだ知識がありません。」
司会「ありがとうございます。博士はクロニクルジャーナル紙で、ベンゾジアゼピンを定期的に服用していた患者の脳がどのように変化したかについて説明しています。また、離脱症状の発生は、脳が回復して再適応していることを意味しているとも説明しています。身体依存、耐性、離脱の結果としておきるこの問題は、脳または中枢神経系の傷害(injury)であると考えられますか?とくに遷延性離脱症状群に移行した人々にとっては、そうでしょうか。」
ジム博士「はい、そうだと確信しています。測定することはできませんがいつかできるでしょう。そしてなぜあるグループがより長く厳しい症状を抱えるのかという謎に迫るでしょうね。ベンゾジアゼピンを頓服ではなく、常用すると傷害が起きることはもう確信しています。常用すると脳はその効果に対抗しようとして適応するため、結果として脳に影響を与える薬に対し耐性が生じるのが普通です。アルコールなどの薬物もそうであり、耐性という名の脳変性につながります。その状態で薬を取り除いても、脳の変性はそのまま残ります。これが離脱症状につながるわけです。このことは事実であり、すべての向精神薬にとって大きな問題であると確信しています。
抗精神病薬の場合、ジスキネジアを頻繁に発症することがわかっているため、変性はおそらくある程度永続的であることもわかっています。ジスキネジアは舌や体の他の部分が不随意に動く神経学的現象です。ええ、ある程度永続的なものです。ですので、薬物は脳に永続的な影響を与えないと言う人々は、20年ほど前からよく知られている知見を軽視しています。ジスキネジア以外の症状も、確実に脳変性である可能性が非常に高いです。」
司会「後遺症に苦しんでいる人々への薬理学的介入に何かメリットはあるでしょうか? それともそれはさらなる合併症を引き起こすリスクがあるだけでしょうか。」
ジム博士「それはよく聞かれる質問です。わたしが診ている患者さんもよくこう言います、❝もっと離脱を簡単にする薬はないのですか?❞と。私の答えは常にノーです。脳に作用するものは服用しないでください。それは問題をさらに複雑化してしまいます。 離脱を簡単にするサプリメントなどもありません。将来なにかできるかもしれませんが。ほとんどの場合、脳を精神活動に巻き込んで気をそらすためにエクササイズをし、健康的な食事と良い睡眠を続けることが最良です。心理療法は役立つと思います。しかし心理療法士とともに離脱プロセスを歩むといっても、心理療法士に処方権はありませんので減薬中はなかなか難しいものがあります。」
司会「バンクーバーベンゾジアゼピンサポートグループでは、バンクーバーにおけるベンゾジアゼピン有識ドクターとしてウェブサイトに掲載しているのは3人いて、博士もそのうちの一人として掲載されていますね。ベンゾジアゼピンの複雑性と離脱プログラムを理解している医師として博士もそのうちのひとりとして掲載されています。1960年代以降、この薬剤の問題が何らかの形で文献に登場し続けているのに、ベンゾジアゼピンに冒された多くの患者が博士のような知識のある医療提供者を見つけるのに四苦八苦しているのはなぜでしょう?」
ジム博士「それもよく聞かれます、理由のひとつは、世界に臨床薬理学者が非常に少ないからです。もうひとつは、ほとんどの臨床薬理学者は離脱という分野に興味がないからです。薬からの離脱研究では儲からないからでしょう。私はかなり多くの学生にこの問題について説いてきたので、そのうちの何人かがこの分野に興味を持って調査研究を継続してくれることを願っています。
しかしもっとも大きな理由としては、この分野がとても難しいせいもあるかもしれません。しかし必要なことです。」
司会「ブリティッシュコロンビア大学の教職員のページでは、ベンゾジアゼピン薬の処方行動を改善するための教育戦略が博士の研究対象の1つにリストされています。 ベンゾジアゼピン処方行動は改善することができるでしょうか?」
ジム博士「できます。それが解決策ですよね?すべての医師は患者にベンゾジアゼピンの危険性について警告し、短期間の使用または緊急治療のみに処方するべきです。そうしている医師は増えています。ブリティッシュコロンビア大学では、長期処方しないよう医師たちに促しています。その点でいくつかの良い動きはあります。」
司会「2007年セラプティックイニシアチブの記事で、患者は常に医師に薬物治療が効果的であるという証拠を求めることができ、ベネフィットが害を上回ると確信できなければ何も服用してはならないと書かれましたね。これはちょっと過激なメッセージかもしれませんが…とはいえ、長期的な健康と幸福のために最善の選択ができるような情報を、わたし達はどのようにして手に入れたら良いのでしょうか?」
ジム博士「悲しいことに、医師にベネフィットや臨床上の重要性についてエビデンスについて尋ねると、ええと、長期処方のベネフィットですが、ベンゾジアゼピンには長期的治験が存在しないことをほとんどの医師が知りません。抗うつ薬、抗精神病薬もそうです。したがって、彼らの答えは“わからない”。ベネフィットが害を上回るかわからないという答えになります。そして私は、これらの薬の多くで害の方がベネフィットを大幅に上回っていると確信するようになっています。」
司会「ありがとうございます。リスクを認識し、医師の指示に従っただけで苦しんでいる人々を助け、薬を処方することに対し注意深く慎重なルートをとる方と話せてとても心強いです。」
ジム博士「ロバート・ウィタカーについて言及したいのですが、ロバート・ウィタカーは本を通して社会に素晴らしい奉仕をしていると思います。彼は人々にこの問題についておおいに啓蒙しました。わたし達も彼のように苦しむ人々を励ましていく必要があると思います。みなさんも読んでみてください。
この問題は私たちが知るべき重大なエピデミック(訳注:静かなる感染拡大)であると思います。処方薬によって助けられるのではなく、処方薬によってもたらされた厄災です。」
司会「ありがとうございます。世界ベンゾジアゼピン注意喚起の日にジム博士とお話しできて光栄でした。お時間を割いていただいてありがとうございました。」
ジム博士「ありがとう。」
司会「ポッドキャストインタビューに時間を割いてくれたジム博士に感謝したいと思います。セラプティックイニシアチブで博士の記事をさらにご覧になれます。URLはhttps://www.ti.ubc.ca です。お聞きいただきありがとうございました。体験談をシェアしてくれた方々もありがとうございます。世界ベンゾジアゼピン注意喚起の日に関わっていただいた方々すべてにお礼を申し上げます。」
(翻訳、訳注:ベンゾジアゼピン情報センター 管理人)
ブリティッシュコロンビア大学麻酔学、薬理学、および医学部名誉教授。
1968年にアルバータ大学で医学学士号を取得、1976年にミゲル大学で薬理学の博士号を取得。内科および臨床薬理学の専門医。 セラプティックレター編集長、PLoSOneとコクランライブラリーの編集委員。
研究対象は、処方薬の適切使用、臨床薬理学、臨床試験、システマティックレビュー、メタ分析とナレッジに関する問題など。