原文:HOW BENZODIAZEPINES MIMIC CHRONIC ILLNESS AND WHAT TO DO ABOUT IT
ジャニス・カール ベンゾジアゼピンインフォメーションコーリション創立者
わたしたちベンゾジアゼピンインフォメーション協議会(以下、BIC)に寄せられるもっとも多くの問題のひとつに、患者もドクターもベンゾジアゼピン薬剤の慢性使用による影響を正しく診断できていないことがあります。こうなるとどうなるのでしょう。患者はたいてい最初は小さな問題で初診を受けます。そして処方されたベンゾジアゼピン薬は即効性があり、短期間のうちはかなりうまく効いてくれます。そして患者は、これはよく効く薬だということで、ほぼ永続的に良い薬だと信じ込み服薬続けることになります。ドクターはそうしてガイドラインに反し、患者の不快を即座に取り除き評判も良いベンゾジアゼピンを、そのリスクについてはなんの説明もなく処方し続けることになります。もしくは、時には免責事項的な注釈をつけられて。たとえば以下のようにです。
「この薬は依存性があるのですが、まああなたの性格から判断するに大丈夫ですよ」と。
この注釈は部分的には正しいかもしれませんが、非常に不完全で間違った“安全意識”を患者に植え付けます。「この薬に中毒(訳注:abuse)にさえならなければ、たとえばオーバードーズするようなことさえしなければ何も心配する必要はない」と。このように処方量を遵守している患者がのちのちベンゾジアゼピンに身体依存形成されてしまった場合、この初診で受けた注釈が、もしかしたら症状の原因がベンゾジアゼピンにあるのではないか?と考えを巡らせることを妨げる可能性があります。
ベンゾジアゼピンを継続使用すると、ときには数週間で、またときには何年もかけて患者の容態は徐々に悪くなっていきます。そしてその原因がベンゾジアゼピンであると見抜ける医者はいません。患者はこの摩訶不思議な病気の原因を探ろうとそれは多くの専門医を訪ねてはほんとうの病名を探してさまよいます。そして長い長い旅の途中で数え切れないほど検査や診断を経て、ラッキーな患者は原因はベンゾジアゼピンの長期服用にあったと気づくわけです。といってもだいたい自分自身の調査によってです。こうして、このことを診断する能力がない現代医学のために、おおくの患者は生活が破壊され、障害者になり、ときには自死に至ります。(働けないことにより)患者の経済的生活は破綻し医療従事者の時間やリソースも費やし、最終的には保険会社や医療財政を圧迫することになるのです。
なぜ患者はこのような症状を発症するのか?
患者がベンゾジアゼピン医原の症状を呈する原因として3つ挙げられます。ひとつは副作用、もうひとつは投与間離脱、そして耐性(による離脱症状)です。
副作用:ベンゾジアゼピン系薬剤に関する入手可能な文献からは多くの情報を得ることができます。それこそ物流センターを埋め尽くすほどです。明らかなことは、ベンゾジアゼピンが様々な身体システムに影響があり、神経伝達機能を破壊するということです。このためこの薬剤は多くの副作用報告リストがあり、それと同時に報告されていてもリスト化されていないものもまだまだたくさんあります。おそらくはオーバードーズのリスクが少ないといった理由のため充分な検査なしに安全な医薬品として認可されてきました。しかし事実としてベンゾジアゼピンは数ヶ月以上の長期使用に関する主な研究はなく、最新のFDAの基準にはまったく達していないようなのです。
投与間離脱:投与間離脱とは、ベンゾジアゼピン薬服用中でも服薬と服薬の間隙に離脱症状が発生することをいいます。それは身体依存が形成されたことを示す“レッドフラッグ”を意味します。投与間離脱は、患者が頻繁に服薬していない、たとえば睡眠のために寝る前だけに服薬している場合などに起こりえます。半減期の短いベンゾジアゼピンを1日1回のみ使用していたら、それは起こりやすいといえます。もちろん薬物代謝能力は人それぞれなので、代謝が早い人は半減期が長いベンゾジアゼピンを服用していてもそれは起こるかもしれません。BICでは多くの患者と接してきましたが、Ativan(ロラゼパム)やXanax(アルプラゾラム)のような半減期が短いベンゾジアゼピンを1日に何度も、時には6〜8回服用し投与間離脱を防いでいるという報告をたくさん受けています。
耐性形成、そして耐性形成による離脱症状: 耐性とはこちら、World Benzodiazepine Awareness Day に書いてあるとおり;「脳の受容体がもとの用量に適応してしまうと、同様の効果を得るのにさらに多くの用量を必要とする。これはしばしば2〜4週間の連用によって引き起こされ、これを耐性と呼ぶ。」
したがってもし患者に耐性がついてしまうと、服薬用量を増量しないと離脱症状が発生してしまいます。離脱症状を和らげるためにはベンゾジアゼピンを増量しなければならない。この処置は単なる時間稼ぎの応急処置でしかありません。なぜなら患者がまた新しく増量した用量に耐性がついてしまうだけだからです。
これらの問題は、ドクターがベンゾジアゼピンの使用を2〜4週間の短期間にのみ限定すべきというガイドラインを守ること、そしてガイドラインを迂回する場合は、そのリスクについて患者にしっかり知らせることが実に重要であることを示しています。投与間離脱と耐性離脱はガイドラインを守ることで完全に防げるのです。さらに副作用の場合でも、短期使用でまだ身体依存形成していない患者を退薬させるほうが長期使用により依存形成された患者よりもはるかに簡単なわけです。
治療と誤診
次のリストは、ベンゾジアゼピン医原性の不定愁訴につけられる一般的な病名および症状です。ベンゾジアゼピン被害者の症状があまりに酷似しているために誤診された病名も含まれています。
自己免疫系:橋本病、ループス、ライム病、慢性関節リウマチ
心血管:高血圧または低血圧、姿勢起立性頻拍症候群(POTS)、頻脈
歯科:歯科齲蝕、乾燥口、歯痛
内分泌系:クッシング病、低血糖症、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、インスリン抵抗性
胃腸:胃酸逆流、胃炎、過敏性腸症候群
遺伝:エーラスダンロス症候群
免疫学:がん、橋本病、間質性膀胱炎、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、再発性感染症
神経学:筋萎縮性側索硬化症(ALS)、錯乱、線維筋痛症、偏頭痛、多発性硬化症、筋衰弱、筋萎縮性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)、神経痛、神経障害、麻痺、硬直症候群、脳卒中、耳鳴り、めまい、聴覚過敏
眼光学:ぼやけたビジョン、ドライアイズ、眼瞼痙攣、視覚過敏
精神医学:双極性障害、境界性人格障害、変換障害、カタトニア、うつ病、痴呆、解離性障害、不眠症、躁病、強迫神経症、広場恐怖症を伴うまたは伴わないパニック障害、パラノイア、精神病、PTSD
生殖器:勃起不全、不妊症、不規則な月経、多発性卵巣症候群
ベンゾジアゼピン医原で上記の症状を呈する患者は不必要な検査や治療を受け経済的にも精神的にも消耗してしまいます。ドクターはベンゾジアゼピンの影響を認識せずにそれらの症状が精神的疾患であるかのように対応しようとします。ベンゾジアゼピンが原因であると特定され、ゆっくりとテーパリング減薬されればそれらの摩訶不思議な症状もゆっくりと軽くなっていき、いずれは消失します。
生活への影響
上記の症状群の一例として女性の月経周期がありますが、ベンゾジアゼピンはその影響で月経不順を引き起こすことがずいぶん前から証明されています。にもかかわらずたいてい誤診され、患者は不必要なホルモン剤を投与されたり、最悪の場合、子宮摘出といった治療を受けるはめになるのです。ベンゾジアゼピンサポートグループを支持する女性の多くが、こういった月経不順はベンゾジアゼピンのテーパリング減薬で正常に戻ると報告してくれています。
もうひとつよくあるパターン例をあげてみましょう。
ベンゾジアゼピンによる慢性疼痛(線維筋痛症や神経痛、歯痛などになるでしょう)を抱えている患者には、ペインマネージメントのためにステロイド注射や、併用禁忌であるオピオイドが処方されます。痛みで眠れない、といった場合にはZドラックなども追加され多剤処方となります。単にベンゾジアゼピンの副作用である場合、双極性障害と誤診され(訳注:日本では身体表現性障害とされることが多い)、これまた多剤処方となりほかの処方薬に依存してしまう可能性があるばかりか依然として症状は良くならないのです。
患者は必要のない放射線や不快で侵襲的検査、効果のない薬に曝される可能性があります。そして従来の医学に絶望して代替え療法に希望を見い出すかもしれない。そしてそれらの治療はほとんど解決にならないので引き続き患者は助けを求めるでしょう。それこそ必死に。結果、患者をケアする医療スタッフも疲弊し、ついにはそれは仮病だと思われたり“気持ちの問題”で片付けられてしまうのです。もし、患者に認知障害がさほどではなく、自分で、もしくはパートナーの助けを借りて調査することができれば、オンラインの巨大なコミュニティ;そこには同じ問題を抱えた人々が無数にいます、にたどり着くことができるでしょう。そこにある資料、投稿を通じて患者は原因不明の症状の元凶がベンゾジアゼピンである!と(ついに)発見します。
どのように対処するか?
もしあなた自身、もしくは愛する人、が(ついに)これだ!と認識に至ったなら、次に考えるのは「じゃあどうしたら?」でしょう。ベンゾジアゼピンによる副作用、離脱症状に対処するにはいくつかの選択肢があります。
第1には、アシュトンマニュアルのような実際の診断ベースにもとづいた変換表を参考にしてより半減期の長いベンゾジアゼピンに置換する方法です。もしより半減期の長いベンゾジアゼピンが許容できなければ、現在服薬中のものをより頻繁に服薬することを試すこともできます。
第2には投与量を増やすことです。そうするには患者は主治医に相談して処方してもらわなければならないが、それがなかなかリスキーなのです。なぜなら主治医はベンゾジアゼピンの問題の兆候を前にして狼狽し、結果的に患者に急速な減薬を促したり、処方を拒否したり、依存専門施設にアウトソースしてしまう可能性があるからです。そうしたことを避けるために、患者自身がなるべくバックアップ主治医、つまり処方拒否された場合に備えて処方箋を書いてくれる別のドクターをあらかじめ探しておくことを念頭に入れておいてください。処方量をきちんと守っていて身体依存形成された患者が依存専門施設に送られることはまずありません。患者が服薬を自分で管理することができれば必要ないからです。もちろん例外はありますが、あくまで例外です。
第3はテーパリングです。これは危険な影響を及ぼしかねないので主治医と患者で慎重に決めていかなければなりません。どの患者が厳しい離脱症状を呈するかそうでないかを見極めることは不可能です。したがって慎重にインフォームドディシジョンが行わなければなりません。患者の年齢、平均余命、他の健康問題、支援システム、および生活状況を考慮する必要があります。決行となったら、患者自身がコントロール可能な最低テーパリングレート、および2〜4週間ごとに5〜10%以下のテーパリングペースが使用されるべきです。おおくの患者はゆっくりとしたテーパリングに成功しています。合理的な期間のうちに最小の離脱症状で、症状も徐々に良くなっていき人生のコマを前に進めることができます。
残念ながらベンゾジアゼピン服用者の10〜50%の人々が身体依存形成され、急速に減薬を進めることは不可能なのです(訳注:その他の服用者達は簡単にやめることができます。薬理学的機序は解明されていません)。患者は長くて辛い離脱症状に対し主治医の助けなしに孤独に耐えていかなければなりません。もともとの症状に直面するだけでなく、それらがさらに悪化するうえに、ベンゾジアゼピンの副作用や投与間離脱、耐性離脱症状にも直面します。この恐ろしいプロセスは患者から退薬への情熱を失わせ弱らせます。更に加えて「中毒者(訳注:addict)」と誤診され非難され医療サポートを断られ、社会的不名誉と社会的無知の両方に直面します。多くの患者がベンゾジアゼピン類の専門家と相談したいと考えています。が、そうした専門家は充分にはいません。ヘザーアシュトン教授、マルコムレーダー教授、レイモンドアームストロング博士など、ベンゾジアゼピン系の有力な専門家はすべて退職しています。つまり知識、理解、患者とともに患者主導型テーパリングに取り組もうという意欲、それらを兼ね備えた医者は非常にすくない。そして現在の患者の精神的、身体的症状がどんなであれ、患者自身に負担がかかるのです。
結論: 医療者への教育が切に必要とされています。それは、
・ベンゾジアゼピン薬剤の適切な処方
・ベンゾジアゼピン薬剤の副作用、耐性、離脱症状の理解
・安全なテーパリング方法について
願わくば、60年以上もの間積み重なったベンゾジアゼピン薬害被害者の叫びと行動がより良い医療教育と包括的かつ長期的なベンゾジアゼピン研究につながりますように。上記3つの医療教育が施されなければ、ベンゾジアゼピンを取り巻く医療は暗黒のままでしょう。患者は苦しみ続け、無駄な治療や誤診は引き続き行われ、貴重な時間やお金が費やされ人々の命が失われるでしょう。
(翻訳&注釈:ベンゾジアゼピン情報センター 管理人)
臨床心理学修士号に取り組んでいたときにアチバン(ロラゼパム・ワイパックス)を処方されベンゾ傷害を負う。 何かがおかしいと感じていた彼女は独自調査の末、原因がアチバンであることを確信。ベンゾジアゼピンの危険性とベンゾに関する調査・研究の必要性を啓蒙するために2016年米国NPO団体ベンゾジアゼピンインフォメーションコーリションを創立。現在そのメディカルボードおよびメディカルアドバイザーには多くの医師、医学博士が顔を連ねる。