原文:WHY PRESCRIBED BENZO PATIENTS SHOULDN’T GO TO DETOX OR REHAB
ニコル・ランバーソン 医師アシスタント Nicole Lamberson, PA
この記事は、ベンゾ処方量依存者がアルコール依存症や違法薬物依存者のための依存専門病院に行ってはいけない5つの理由について述べています。
不適切なモデル
身体依存と中毒(訳注:addiction. 以下アディクションと訳す) は同義ではなく、またそれらはお互いに排他的ではありません。つまり共存しえます。ベンゾジアゼピンに対し身体的、生理学的依存を形成するということは、ベンゾジアゼピン薬剤の連用によりGABA受容体の構造に永続的な変化が生じた、ということです。簡単にいいますと、依存形成されたカラダはたったいま離脱症状を発現しないようベンゾジアゼピン薬剤を必要としている状態にあるわけです。身体依存は他の薬剤でもよくあることであり、ただ単に耐性形成薬を漫然と服用しつづけた結果であるわけです。
身体依存とは異なり、アディクションとは脅迫的な薬物継続服用欲、薬物に対する強烈な欲求、自己、他者区別なく障害をもたらすなどの抑制不可能な薬物渇望状態として定義づけられています。身体依存とアディクションは共存し得ます。しかし身体依存形成されているがアディクションではない人もいます。そのまた逆もしかり。つまり身体依存であり同時にアディクションである場合があるが、身体依存形成がアディクションを伴う、というわけではありません。主治医の処方指示に従って忠実にその服用を守ってきた患者は、とてもアディクションとはいえず、身体依存のみといえます。
米国のすべての依存専門施設、デトックス/リハビリセンターでは、「12のステップ」というモデルが採用されています。それはプロセスの中で同じアディクションから抜けだそうとしている仲間とともに薬物継続服用欲、問題行動を指摘し合い禁薬を維持し、12のステップを完了させます。過去の誤りをトレースし修正し、新しい行動規範で新しい人生を生きることを学び、自分が弱い存在であることを認め「ハイアーパワー」を認識します。
この精神的なアプローチは、法令遵守のもと主治医の適切な治療に素直に従っただけで医原病ともいえる身体依存に陥った患者にはまったく意味をなしません。この12のステップが、生理学的に構造変化したGABA受容体を元に戻すでしょうか? 本来GABAに反応すべき受容体がベンゾジアゼピンにのみ反応するようになってしまった状態を安全にもとに戻し復元させるには、ゆっくりとした減薬(訳注:Tapering)しかありません。
患者はなんらインフォームドコンセントもなく、まったく知らされずに医原病ともいうべきベンゾ依存に陥ります。ひとたび耐性が形成されたり、またはベンゾの危険性に気づき自らこの薬をやめたい、と断薬を試みたところ、耐え難い離脱症状が襲ってきます。
こうなってくるとドクター達はベンゾをひきつづき服用させたりまたは増薬を試みたり、そして依存形成と離脱症状をアディクションのそれと同等に扱うため、事態を責任転嫁させ(訳注:"buck" is passed)、依存専門施設でベンゾを断薬させられることになるのです。
これは米国特有の問題ではありません。ロンドン大学精神医学研究所の臨床的精神薬理学の教授であり、数少ないベンゾジアゼピンのエキスパート、マルコム・レーダー博士は、 BBC Radio 4 Face the Factsでこう述べています。
ベンゾからの離脱は非常にむつかしく、英国ヘルスサービス(NHS [National Health Service])がベンゾ依存者を依存専門施設に紹介することで対処していることはスキャンダルとなりました。そこではベンゾ依存者がヘロインジャンキーと部屋をともにしています。医師の処方でベンゾ依存にさせられた主婦は怒り心頭です…
もしまだ存在しない特別なサポートのための医学的なニーズが生じたら、丸ネジを四角いネジ穴にはめるかのように、患者を不適切な医療システムに投げ込むのではなく、ドクター達に医療教育を施し、本当に必要とされる施設およびリソースを利用可能にするべきではないでしょうか。
最後に、処方された抗うつ剤(訳注:SSRI、SNRIなど)を依存専門施設に行って退薬した人の報告はほとんどありません。実際、それらのクスリの断薬のために依存専門施設を紹介するのは意味がないかと思われます。なぜなら抗うつ剤もまた、ベンゾとは異なる身体依存や離脱症状を伴うことがありますが、抗うつ剤の場合は普通に一般外来にて、テーパリング(スローな減薬)によって中止されるからです。ベンゾの離脱症候群は抗うつ剤のそれよりもはるかに危険です。精神的、身体的発作、そして自死をも招きます。
だからこそ依存専門施設での監督下で行うべきだ、という意見がありますが、結局そういった施設がやることは「一気断薬」か「早すぎる減薬」なのです。
ベンゾジアゼピンはスケジュールIVに分類されている薬物であり(訳注:麻薬と同じ管理薬物)、それゆえに依存専門施設に送られてしまう面をあるとおもいます。一方で抗うつ剤服用者に関してはそんなケースはありません。スケジュールIVに分類されている薬物ではありませんから。
しかし管理薬物であるからといってアディクションとは限らないのです。
さらに言えば、他の管理薬物は医療機関で適切に利用されています。たとえばバイク事故での重篤けが人にモルヒネを使用することがあり、それによって身体依存を形成してしまうことがあります。この場合では、患者は中毒者とみなされず、依存専門施設に送られるのですけども、疼痛管理がもはや必要とされなくなればテーパリングで減薬していくことになります。
ドクター達はベンゾの身体依存とアディクションは違うこと、つまりベンゾに耐性形成ができ離脱症状を引き起こしていることをそのままアディクションとは思わずそれらの違いについて認識することに重責を感じて欲しい。悲しいことにあなた方の判断ミスで患者は依存専門施設に追いやられ、不当に扱われ非常に危険な状態にさらされることになります。
[ベンゾの身体依存とアディクションの違いについてはさらにこちらを読んで下さい。 こちら、またはこちら ]
時間もリソースも十分でない
2013年、アディクション治療センターの年間売上高は約350億ドルでした。ほとんどの人々にとって、そういった施設に行くことはほとんど不可能でした。なにしろ、民間の施設ですと30日間の滞在で15,000ドルから100,000ドルくらいもするのです。それに加えて、一部の政府機関や精神科病棟では、無料または手頃な価格の治療プログラムが提供されていますが、通常7〜90日以上の長期間にわたるプログラムや滞在は提供されません。このような短い期間では、ベンゾジアゼピン減断薬には大きな確率であまりにも短く、そして危険です。ベンゾ身体依存者が必要とする期間は12〜18ヶ月、もしくはさらに数年必要だとする報告もあります。
依存専門施設は医原性ベンゾジアゼピンの身体的依存にはまったく適していませんが、ときどき結局減薬に特化した施設がないために利用されることがあります。もっとも効果的なベンゾ離脱法ガイドラインは、ゆっくりとした患者主導によるテーパリングで、それらについてドクター達へのトレーニングも必要であるし、ベンゾ離脱に特化した施設、リソースを作っていかねばなりません。
イギリスとオーストラリアの慈善団体では経験をつんだベンゾ離脱専門の減薬アドバイザーが何人もいて、ベンゾ、およびZドラッグ(そして時には抗うつ剤、オピオイド)のテーパリング減薬指導を患者に対し行なっています。
期待できない結果
多くの依存専門施設では、ベンゾジアゼピン断薬については「当院では対応していない」とされることがあります。
そういう施設はベンゾ離脱のむつかしさ、一気断薬や早すぎる減薬による離脱症状の悪化、そして院内自死を経験から知っており、多くのガイドラインでもスローなテーパリングを推奨しているからです。
ベンゾジアゼピン依存性の患者を受け入れる依存専門施設は、しばしば患者のベンゾジアゼピンまたはZ薬を1週間程度のかなり短い期間でやめさせ、フェノバルビタールまたはリベリリウム「テーパー」で置き換えることがあります。さらにギバペンチン、リリカ、ベータブロッカー、抗うつ薬、抗精神病薬などを補助的に追加し、離脱症状を「管理」しようとします。
こうしたケースですと、患者はベンゾジアゼピン薬1剤で入院し、同じく身体依存や離脱症状の可能性のある多剤処方によって退院することになります。英国国立処方薬機関が「ベンゾジアゼピン離脱のプロセスにおいては「ベータブロッカー、抗うつ薬、抗精神病薬の追加は可能な限り避けなければならない」と述べているにもかかわらず、です。
急激な減薬や一気断薬をこころみた患者のなかには、断薬後、数カ月たってから「遅延(または遅発性)離脱症候群」を発する場合もあり、こうなるとサポートやアフターケアはまったく受けられず、数週間後または数ヶ月後に精神的、身体的発作、そして自殺とあいなります。この時点において(遅発性離脱症候群を発症した時点)、それはやはりベンゾの急激な減断薬によるものなので、患者はヘザー・アシュトン博士のマニュアルで説明されているように、自らが非常に不利な立場にあることに愕然となるわけです。
“早すぎた減薬や、中には一気断薬をこころみたベンゾジアゼピン服用者はこう思うでしょう。「また一からやり直して今度はもっとゆっくりと減薬してみよう」。ところがそうはいかないのです。理由ははっきりしませんが、2回めのトライでは同じベンゾの服用量では効かないのです。さらなる高用量で症状が部分的に緩和され、ふたたび長い離脱のプロセスをやりとげなければなりません。”
最後に、12年間、自らベンゾ離脱診療所を運営していたベンゾジアゼピン薬のエキスパート、英国ニューカッスル大学の臨床精神薬理学の名誉教授であるヘザー・アシュトン博士は、“だれも自分の意思に反して離脱を強制されるべきではない。事実、意思に反して断薬を強制される人がいる”と述べました。
これは本当に真実で、BICでも急減薬や一気断薬をおこなった被害者に遭遇しますと、まあ彼らはだいたいスローなテーパリングでやり直すために助言を求めてくるわけですが、結局は私たちに電子メールを送ったり、サポートグループに必死に投稿する内容というと、もはやどうしたらいいのかわからないとか、悲しいことに自死してしまったこと、撤退症候群があまりに過酷でただひたすら耐え忍び続けている内容だったりします。
ロシアンルーレット
ベンゾジアゼピン離脱に際して、症状の重症度や離脱完了の期間はじつに十人十色です。 高用量のベンゾをかなりの長期間服用していた患者でも、軽度の症状かもしくはまったく離脱症状を経験しない人もいます。 アシュトン博士によると「ベンゾジアゼピン類を全く症状なく止めることができる人々もいます。当局の調査によると、慢性的な1年以上といった長期服用者でさえも50%にのぼるようです。しかし、たとえこの数字が正確(議論の余地がありますが)であっても、ベンゾジアゼピン類を突然止めることは賢明ではありません。」
マルコム・レーダー博士は次のように述べています「ジアゼパムのようなベンゾジアゼピン服用者の約20〜30%が離脱に困難を極め、またそのうちの約3分の1の人々が非常に悲惨な症状を呈していると推定しています。」
マルコム博士の提示する数字はちょっと慎重すぎるかとおもわれます。 オーストラリアの非営利団体Reconnexionは「ベンゾジアゼピンを6カ月以上連用している人の50〜80%が離脱症状を経験する」と述べています。
いずれにせよこういった数字がどうであれ、ベンゾジアゼピン服用者が依存形成されているか、どの程度の重症な離脱症状を発するか、を前もって調べる診断方法も未来を映し出す水晶玉もないわけで、したがって依存専門施設で一気断薬や急激な減薬を行うことは賢明ではないわけです。 ですので医療提供者も患者もことベンゾジアゼピンに限っては、前章で述べたように悲惨な結末を避けるために「自分は大丈夫だろう」などといった根拠のない自信の元で博打を打たないで欲しいのです。
注意: ベンゾジアゼピン薬の副作用(離脱症状でなく)や合併症による重篤な症状を呈するケースもあります。その場合は主治医は自分の裁量に委ねるにせよエキスパートに相談するにせよ、テーパリングか一気断薬かのどちらかを選択しなければならない必要性に迫られます。 しかしながらこういったケースはほとんどありません。
テーパリングがもっとも成功している
ヘザー・アシュトン博士は、彼女のクリニックでベンゾジアゼピン身体依存形成患者と12年間向き合った集大成として作成された「アシュトンマニュアル」で、患者主導によるゆっくりとした漸減によってその成功率は90%、と報告しています。
2006年の研究: ベンゾジアゼピンの長期連用を減らすために、テーパリングを使用した介入プログラムを確立するために行われたこの研究は、介入群の患者の45.2%がベンゾジアゼピンを中止でき、対称群では9.2%であったことを示しました。
3回の介入のたびに、1人の患者が撤退を達成しました。 介入群の被験者の21.9%はその初期用量を50%以上減少させました。
いっぽう対称群は16.7%です。
この研究では、「かかりつけ医による標準化された医療アドバイスは、テーパリングによる減薬との組み合わせでベンゾジアゼピン長期服薬者を退薬させるのに有効で、プライマリケアにおいて実現可能である」と結論付けています。
2016年の研究: こちらの研究では、65-95歳のベンゾジアゼピン長期服薬者に対する直接的な教育介入の効果を評価しています。 ここでは4.5ヶ月のテーパリングプランについて書かれたEMPOWERという小冊子をもちいて教育を施し、合計261人(86%)が6ヶ月のフォローアップを完了しました。 受講者のうち62%は、ベンゾジアゼピンの中止について、医師および/または薬剤師とのカウンセリングを開始しました。 そして6ヵ月後、そのうちの27%がベンゾジアゼピンの使用を中止できました。いっぽう対称群は5%です。
2018年の研究: この研究ではベンゾジアゼピン身体依存者に対し、1週間に25%のテーパリングによる離脱症状重症度および急性転化を、半減期が短いベンゾの依存者と半減期が長いベンゾの依存者とで分けて比較しました。
テーパリングの速度に耐えられない依存者は速度を落とすことが許されました。 被験者の90%は離脱反応を経験したが、軽度から中等度以上のものはほとんどありませんでした。 それにもかかわらず、長い半減期の32%および短い半減期のベンゾジアゼピン服用者の42%は中止までは完了できませんでした。 “もっとも困難だったのは、テーパリングによる減薬が残り半分となった時からだった” つまり、テーパリングの減薬率を患者自身に任せることで、長い半減期のベンゾジアゼピン治療患者の68%が首尾よく離脱でき、短い半減期の被験者は58%でした。
ベンゾの離脱、退薬にベストソリューションとなる方法を決めるには、テーパ法(乾式切削、液体滴定、マイクロテーパリング、グラムスケール、複合液体、テーパストリップ、カットアンドホールドなど)、テーパの期間、テーパの%/速度、長い半減期と短い半減期のベンゾの比較検討、等などさらなる研究が必要です。
しかしながら、患者主導のゆっくりとした漸減は安全面、効果、成功確率、どれをとっても公表された公式ガイドラインおよび医学文献で圧倒的に推奨されていることは明らかです。
以上述べてきましたが、ここまで読んでいただいて依存専門施設/病院がベンゾジアゼピン身体依存者にはまったく適さないことがおわかりになったかと思います。
(翻訳&注釈:ベンゾジアゼピン情報センター 管理人)
管理人注記:
日本でも「依存専門病院 入院」と検索すると、神奈川県立精神医療センター(旧せりがや病院)や群馬赤城高原ホスピタルなどいくつか出てきます。 それらの施設のWebサイトをひととおり舐めればわかりますが、アルコール依存やギャンブル依存、(違法)薬物依存などを受け付けており、「専門治療」は作業療法や認知行動療法などベンゾジアゼピン身体依存にはまったく無効といえるメニューとなっています。ベンゾジアゼピン依存のための特別なプログラムはありません。
他の依存者と同様、約半年以内に減薬させられ、その減薬スピードについていけず院内で自死したり、退院しても、徐々に元気にはなってはいくものの5年、10年たっても遷延性離脱症候群(つまりその段階になると後遺症ということになると思います)が抜けないという方々がほとんどです。
バージニア州在住、医師アシスタント(訳注:医師の監督の下に簡単な診断や薬の処方、手術の補助など医師が行う医療行為の一部をカバーする医療資格者。北米、英国などで導入されている)。2000年ジェームズマディソン大学で学士号を取得、2004年イースタンバージニア医科大学でMaster of Physician Assistantプログラムを修了。緊急医療と産業医の研修中にベンゾジアゼピン離脱症候群による重篤な疾患が原因となり退職。
2005年、ニコルは仕事のストレスのためにザナックス(ソラナックス・アルプラゾラム)を処方される。 その後5年間、典型的なベンゾジアゼピン離脱症状の多くを発症し、複数の精神科医がこれを精神疾患と誤診。そのためベンゾジアゼピン薬2剤、Zドラッグ、抗うつ薬、抗精神病薬などの多剤処方に。
2010年、ある雑誌に書かれたベンゾジアゼピンによる同様の体験記事を発見し、自ら調査を始め自身の症状がベンゾジアゼピンによるものだと認識に至る。だが当時スロー減薬の重要性に関する情報が少ないことにより、依存専門病院で短期間で抜かれ現在まで続く重度遷延性離脱症候群をもたらした。
体調が許す限りニコルはベンゾジアゼピンの危険性とその重度遷延性離脱症候群について執筆し、ベンゾジアゼピンインフォメーションコーリションでの活動を含む啓蒙活動を行っている。ベンゾジアゼピン離脱症候群の生の体験を伝えつづけることと同時に、料理や献身的な家族との時間を楽しんでいる。