書籍『ベンゾ系睡眠薬・抗不安薬の安全な離脱方法 改訂版』(A5版284ページ)販売中)

    ベンゾ離脱中に脳の中で何が起きているか

    原文:What is happening in your brain?

    著者:

    Parker

    投稿:10月3日, 2012年

    ※ 世界最大ベンゾ情報フォーラムベンゾバディの投稿記事でもっとも読まれている記事です。

    ※ 注意!:著者のParkerは一気断薬をしています。この記事を読んで一気・短期での断薬でも大丈夫とは思わないように!投稿時期が2012年と古いだけあって当時としては「離脱症状」の捉え方に変革をもたらしましたが遷延性離脱症候群・後遺症のことまでは言及していません。

    以下、本文
    ---------------
    この投稿があなたを勇気づけ希望になるものになればと願っています。
    わたしの学位は音声言語病理学の学士と修士号。そして修士課程では神経細胞学と生理学を学んでいました。わたしが学んだことは、まずはじめに脳卒中や脳障害の患者を見て、その症状、放射線レポート、医師のカルテを読みとり、障害を負った脳の中で何が影響を受けたかをわたしの頭の中でイメージし、その患者の治療計画を策定することにありました。病院のセラピストにとってそれは“スピーチと言語”以上のことです。つまり、飲み込む、食べる、記憶を再構築する、集中力と注意機能を再構築する、執行機能を再構築する(計画をたて実行する)、とにかく“考える”ことに関する全部です。それをもって昏睡状態から抜け出し、退院でき、仕事や学校に戻って普通の生活を営むことができる。そのための脳機能全部ということですね。その回復方法について学びました。

    しかし、まさかわたし自身が脳に損傷を受けることになるなんて想像もしてませんでした

    しかし、実際に離脱症状に耐えながらも、わたしはしょっちゅう(離脱症状の)波の中に横たわり、自分の脳の中で何が起きているか“分析し解読しよう”と試みてきました。この分析はきっと誰もが読んでみたいかもしれない。ずっとそう思ってました。そう、私たちに起きている精神的な離脱症状についての“なぜ?”に対する質問への答え、です。まず第一に、受け入れなければならない真実は、私たちはみんな回復する、ということです。わたしはよく昏睡状態から目が覚めても自分が誰だか分からない、という患者を見てきました ― 回復するのです。歩き方を覚えていない患者、自分の名前を書けない患者、今年の年号や大統領の名前がわからない患者(実際これはわたしも最悪期そうでした!)。ときおり家族すら覚えていない患者もいました。彼ら患者たちは回復するために多くの時間を要します。しかしほとんどのケースで彼らは回復するのです。トラウマ的な、または外傷による脳の損傷から!

    いっぽうで私たち(ベンゾ被害者)は回復治療を受ける必要はありません。ただ単に、待つだけです。わたしも含め、ほとんどのみなさんがベンゾ断薬後に一時的な『脳障害』を受けるとは思わなかったでしょう。しかしわたしは、自分自身の経験と学問的バックグラウンドのおかげで、すべての症状はちゃんと目的をもって発症していると理解し始めました。何ヶ月も何ヶ月もかけて自分の脳の中で何が起きているかを分析し、より視覚化できるやり方でこれからそれを説明しようと思います。

    まずはじめに、GABAとグルタミン酸から始めましょう。ほとんどの方がこれらがどのように機能するかもうご存知かも知れません。でも、そうでない方のために説明しておきます。まず、私たちは何百万もの神経(ニューロン)からなる強大な神経系システムを持っています。それらはお互いに“触れて”いません。間には小さな小さな空間があります。お互いの通信に2つの主な化学物質を用いてコミュニケーションするわけです。その2つとは、まさに神経系の大立役者。GABAとグルタミン酸です。どちらも中枢神経系でつねに働いています。それらは感覚・動作などすべての側面からお互いに連携しあい身体内すべてをコントロールしています。入力情報があると、それを適切に処理できるように“トリムアップ”し、次へと渡していきます。GABAとグルタミン酸、それらはビルにおける鉄筋フレームのようなものです。鉄筋がなければビルは立っていられません。ビルが建つのに鉄筋構造が必要なのは言うまでもありませんね。

    GABAは抑制系です。
    神経がGABAを放出すると、いろいろな機能を阻害する、つまり感覚入力情報の総量を抑えてうまく処理できるレベルまで“制限”します。たとえば、あなたが絵を描いていてとても細かい部分に取り掛かっている時、手の震えを“安定させるために”GABAが放出されるかもしれません。また、GABAは動作をよりスムーズにするためにそれを“浮かせます”。この言い方はあまりに簡潔すぎますね笑。リニアモーターカーをイメージしていただけるといいでしょうか。まだまだ多くの働きがありますが、ここで言いたいことは、GABAは中枢神経系全体においてつねにすべての感覚・動作などをバランスよくコントロールしている、ということです。同様に、グルタミン酸もGABAとのバランスで働いています。それは「興奮性」トランスミッターです。感覚入力情報に火をつけ促進させ、流れをスピードアップします。グルタミン酸もまた、いろいろな働きがありますが、つまりはGABAと反対の働きをします。どちらもつねに必要です。ニューロンはすべて、いつも、神経系全体にわたって無限のサイクルでGABAとグルタミン酸をバランスよく放出しているのです。これは本当に凄い働きだと思います。

    さて、ベンゾはいったい何をしでかすのでしょうか
    もし人が不安定な状態のとき、彼/彼女はストレスで弱っているので衝撃的な出来事や不安を醸し出す状況をやり過ごしたり耐えたりすることができなかったりしますね。そして医師がベンゾを処方したとします。ベンゾが体内に入るとそれは“すべてのドアを開けっ放しにして”、GABAが神経系にまさに“流れ込む”ようにします。本来ならそうする必要がない時ですら、です。ベンゾは即効性がある。これはベンゾが体内のすべて(感覚・活動)をスローにし抑制するからです。この作用は手術の際の麻酔や、発作障害の際に役に立つでしょう。そう、ベンゾはGABAに作用し“すべてをスローに”します。そして実際の効果として、眠気を及ぼし穏やかな気持ちにさせ不安を取り除きます・・・つまりすべてが抑制されるわけです。そして一般的には、ほんの一日、ベンゾを服用してもなんの問題もありません。ベンゾがなくなれば身体は通常のオペレーションに戻ります。しかし、毎日毎日ベンゾを服用しつづけると、そのあいだ服用者は不安を感じなくなってはいますが、このような神経抑圧状態のもとでは通常のオペレーションが運用できない、と身体は理解し始めるのです。つまり、
    ・ホルモンを作り出すことができません。
    ・酵素を作り立つことができません。
    ・正常に消化することができません。
    ・酸素を十分に取り込むことができません、等々。

    身体がこうした機能を正常に行うには“ノーマルスピード”で運用されなければなりません。抑圧された“スローダウンスピード”ではなく。しかし、そんなときに身体が自ら対処できること。毎日入ってくるベンゾを一瞬にして体外に出す、といった魔法のようなことはできませんが、身体がノーマルスピードを維持するためにできる選択肢は2つあります…ひとつは自らのGABA受容体のスイッチを切ること。これによりベンゾが神経システム内でのベンゾによるGABA受容体への作用を無効にできます。そしてもうひとつ。抑制作用に対するカウンターアクションとして、グルタミン酸受容体をさらに成長させます。しかし、これは本当のバランスではありません。身体はベストを尽くし無理やりに対応させているバランスです。しかし期間がたつにつれ無理がきます。疲弊していくのです。このような状況ではセロトニンが十分に合成されません。一方、ドーパミンをはじめいくつかのものが余分に合成されます。十分に作られないものと余分に作られるものがある! 本人は自分の体内でこんなことが起きているとはまったく気づいていないでしょう。ささいな違いも異変も気づかないでしょう。しかし、ある日、なぜか悲壮感の中で目覚める、夜眠れない、物事を覚えられなくなる、視界が変に感じる、・・・もしくは明らかな“耐性離脱症状”をいきなり自覚し始めるかも知れない。同量のベンゾを服用しつづけているものの、身体はベストを尽くし続け、そしてある時もはや対処できなくなるのです。

    そのときは何週間後か何ヶ月後か、何年間後か。

    あるひとはそのタイミングで“耐性離脱症状”が起き、またある人はベンゾを減らした時に無理に作ったバランスが崩れて起きます。(わたしの場合は前者です!― 服用中に“耐性離脱症状”が起き、クロノピンとアンビエン(マイスリー)を飲んでも6時間以上眠れず、先週の出来事が思い出せない!わたしはずっと泣いていました。なにかが、なにかがおかしい…)
     
    さて、身体がこうして無理やり対処することによりバランス化されたプロセスをもとに戻すには時間がかかります。GABA受容体はアプレギュレートさせ、スムーズにその機能を“起動”し“増殖”していかなければなりません。いっぽうグルタミン酸受容体はその機能を“切り”“縮小”していかなければなりません。そしてこのマルチタスクの最中に、モノアミン(セロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリンなどの神経伝達物質)はなんとかして合成され続けなければなりません。何週間、何ヶ月、何年かかけて数百万ものニューロンが再構築され、経路を変更し、GABA受容体を再構築し、グルタミン酸受容体はダウンレギュレーションさせ、セロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリンも合成方法を再形成しなければならないのです。このような膨大で複雑な再構築期間中、あらゆるホルモンと酵素も常に作られ続けられなければならないのです。つまりです。巨大なオフィスビルで、そこでオフィス労働者が普通に立ち入る中で、基礎となる鉄筋フレームを再構築しているようなものなのです。

    世界貿易センタービルを思い出してください。まだ完全に崩れ落ちてない状態です。外側からはわかりませんが、中はさまざまな場所で鉄骨が崩れ、錆び、よじれてしまっているでしょう。もし人々がなにも知らず世界貿易センタービルに出入りしていながら、基礎となる鉄筋構造を再構築しろ、と言われたらどうしますか?たとえば一時的な工事用エレベーターなり足場なりを設置しなければなりませんね。しかし設置した箇所の鉄筋を修復する際にはそのエレベーターを一旦解体し、また別の場所に設置しなければなりません。設置し作業し、解体して迂回してまた設置。これらの作業すべてを、オフィスワーカーが普通に出入りしている間に行うのです。鉄筋フレームの修復には外壁の修繕も伴うかもしれません。修復箇所はいったんフロアも打ちっぱなしの状態から改装しなければならないかもしれません。内装屋が壁を塗装している間に、弱電系配線を敷設しなおしている間に、オフィス家具を新しく再設置している間に、あらゆる労働者が内部で安全を保たれながら、鉄筋フレームを再構築するのです!

    間違いなくこれはカオス(混沌)です。

    巨大なビルがその運用を止めずに基礎となるフレームの再構築の修復作業を行うなんて普通は無茶苦茶な話ではないですか。当然、通常業務ができない!とテナントからは猛烈なクレームが来るでしょう。一時的なルートが作られ修復し、解体して迂回しそしてまた一時的に設置。修復し解体し迂回しそしてまた設置。また設置して修復し・・・永久につづくループ。ツインタワーと同じように、それは可能ですが、大きなリソースと時間がかかります。時には何年間も。(グラウンドゼロに立つ新しいタワーを見てください!それは高く、強く、自由の象徴です。あなたがそうなるように!(*^_^*))

    さて、そのカオスの中で何が起きているか、脳のどの部分がどんな離脱症状をもたらしているのか。まだ十分な研究がなされていないので、私は研究に基づいてこれから述べることを「知る」ことができません。でもわたし自身の神経解剖学の研究と、それこそわたし自身のベンゾ離脱症状の経験。これらに基づいて、波のような離脱症状の間にいったい自分の脳の中で何が起きているか、分析を試みました。思い出してほしいのですが、わたしはよく放射線レポートを見て、患者の脳の障害と現状を見積もっていました。このプロセスと非常に似ているのです。放射線レポートの代わりに、わたしは自分の症状を体感で感じ脳の障害部分を推測することができる…ある意味、より正確です。
    では脳構造とその機能を最初に列挙して説明していきましょう。これは、離脱症状が起きたときに脳内で何が起きているのかを理解するのに役立ちます。

    脳構造について

    -扁桃体(amygdala)-
    これは脳の恐怖を司るコントロールセンターです。脳内の中心にある小さなパーツ。恐れは保護的でとても重要な感情です、それはあなたに何か危険が迫ったときにその危険を評価し行動に移すためのトリガーです。たとえば狂犬があなたを追いかけているときなど。ただ、何ヶ月も恐怖を感じ続けていると、そこからのリカバリーは難しいことになります!それでもなお、恐怖はあなたの心の問題ではなく、脳です。扁桃体の中でグルタミン酸が働きすぎていてGABAが足りないという状態です。あなたの周りに本当に危険がなければ、恐怖コントロールセンターである扁桃体は、恐怖感情を解き放つでしょう。生理学的な状況ではこうなるのが普通です。恐怖を感じるのが普通って、、なにかひどくない?そうですね笑。でも本当にこれは脳構造の働きなんです。広場恐怖症も水恐怖症も他のあらゆる恐怖も脳構造から説明できます。たとえばあなたは“月”に対して恐れを抱いているわけではない、あなたは絶え間なくただただ恐怖を感じているだけなんです。なぜなら恐怖コントロールセンターである扁桃体が再構築途中にあるから。グルタミン酸受容体は剪定され縮小されている最中です。GABA受容体は成長させている最中です。恐怖はしばらく続くでしょうが、減衰し、もとの正常な状態に戻るはずです。最終的には脳は正常に機能するようになるでしょう。

    -海馬(Hippocampus)-
    これは脳の“記憶コントロールセンター”です。古い記憶と感情を結びつけます。扁桃体で起きていることと同じことがやっぱり海馬でも起きています。グルタミン酸優位でGABA劣位の状態です。あなたは過去人生のあらゆる出来事から“侵略的な”記憶を呼び起こします。それらは残酷だったり邪悪だったり…。ただそれらはあなたを傷つけるわけではありません。脳内でなにが起きているかを知り、それに対し客観視できればノーマルな現象と理解できるでしょう。出現したり引っ込んだり、波のような症状。とても厄介ですが脳が回復すればもとの状態に戻ります。

    -視床下部(Hypothalamus)-
    これは体温調節を担う構造体です。離脱の初期、わたしの体温は35℃まで下がりました!そして3時間後、もとに戻るのです…わたしは文字通り、ベッドで恐怖に震えながら何時間も寝たきりになっていました。これは視床下部の観点だけで説明するには複雑なんですが、わたしは図を描いてこのプロセスが起きる過程を描写することができました。それ以降、それほど怖くはなくなりました。

    さて、次から述べる脳構造については、いわゆる「灰白質物質」(gray matter)、または「皮質」(cortex)の一部であり、我々が「高次脳機能(higher brain)」と考えるもの - つまり思考や計算を処理する部分です。

    -前頭葉(Frontal Lobe)-
    これはご存知でしょう。頭蓋骨の内側、前面にある部分ですね。計画をたてたり決定を下したりすることをコントールしています。感情を適切なレベルにまで抑制することもします。たとえば、具材を取り出してサンドイッチを作る際に前頭葉が働きが必要となります。わたしが担当した脳障害患者の方で、サンドイッチの作り方を詳しく話せるものの、実際に台所で具材の前に立つとどうしていいかわからず突っ立ったまま、という患者さんを何人も診たことがあります。彼らは考えを行動に具現化できないのです!つまり前頭葉損傷です。誰かに作り方を教えることができる。しかし自分ではそれを実行できない (cannot initiate doing it)!おわかりのとおり、これも治療と時間で回復します。私たちもおなじ。時間をかけて回復します。わたしに関して言えば、四ヶ月もの間、こどものおもちゃの片付けができませんでした。どこから手を付ければいいかもわからず、文字どおり不可能だったのです。これにもやはり理由は同じと思います。前頭葉にGABAがなく、グルタミン酸でいっぱい。考えを具現化するのには興奮しすぎているのです。でも今は違います。たった今この原稿をチェックできている(*^_^*)落ち着き払ってやれている。はい、もとに戻るのです。

    -後頭葉(Occipital Lobe)-
    これは脳の“視覚コントロールセンター”です。頭蓋骨の後ろ側にあります。回復の途上で、わたしの神経はこの部分で狂ってしまっていました。後頭葉の損傷によりすべてが眩しすぎるのでした。間違いなく“そこにないものが見えて”いました。視界が破壊されていて、歪んでいる。色はまったくありません。明るさの調整もできません。視覚に関する離脱症状だけで100の症状を挙げることができます!でももう一度。もとに戻ります。

    -前庭系(Vestibular System)-
    これは、耳の半円形の管の系であり、空間でのバランス感覚をコントールします。この部分が一時的に損傷すると、目眩を感じます。朝起きると、『オーマイガー、目眩を感じるわ、なんだか惨劇の館にいるみたい』と思ったものです。時間がたつにつれ、前庭システムと視覚システムがお互いに連携して、それらが“学習する”ようになっていきました。いまにいたり片方の目は正常に機能し、もう片方はすこーし傾いているように見えます。しかし目、それ自体が物事を見ているわけではありません。まだ回復途中の前庭システムが目から入ってくる信号を脳に“やや左に傾けて”見せるようにしているのです。実際は傾いてません。離脱症状ではこれもまた厄介ですが、前庭系の回復の印にすぎません。

    -側頭葉(Temporal Lobe)-
    これはあなたの両耳の近く、脳の両側にある部分です。聴覚情報が処理される場所です。音それ自体も含みますが、私たちが聞こえているモノの「意味」、話や言語、感情、その他いろいろ含まれます。離脱症状の初期は、誰かがわたしに話しかけてくれても最初のフレーズが終わる頃には何を喋っていたのか理解できませんでした。わたしの聴覚処理は完全に狂っていました。誰かが話していることをリアルタイムで理解できず、ようやく追いつく頃には相手はもう別のトピックについて話しているのです!また、ベッドに横たわっていたときに、ありはしないはずの騒音を聞いたこともあります。おそらくこれは、確かになにか音がしているものの、わたしの側頭葉がGABA不足なのでその音を適切に“剪定”することができず、その音の意味がなんなのかを理解できず(冷蔵庫のファンであれトイレを流す音であれ)ありはしないはずの騒音、として認識してしまってるのだと思います。グルタミン酸だらけの側頭葉はただただ騒音として感じていたというわけです。したがって単にノイズを“処理する”かわりに、そのノイズにかんする妄想を放出していました。そして必ずそれは間違っていました。わたしがサーカスの音楽のような音が聞こえる ― と同時に、サーカスを観に行ったことがある体験を海馬(hippocampus)の中から探し出そうとする ― その記憶が扁桃体(amygdala)を刺激し恐怖を感じる、という具合です。だからベッドの上でなにかしらの物音を聞けば子供の頃のことを追体験しそれを恐怖に結びつけ怖がって震えている、おかしな人間になっていました。本当ですかって? ええ、本当にそんなふうに狂っていましたよ。しかしそれはわたしの心ではなく、脳なんです。(not in my MIND. It was my BRAIN)。壊れていたのは脳です。そしてそれは正常なことです。脳の構造はこのように振る舞うことを“義務付けられている”のです。

    では脳構造について学んだところで次に行きましょう…なぜ、ベンゾ障害からの回復プロセスで私たちはだいたいみんな同じような症状を経験するのでしょうか。

    ええたぶん、これからの説明であなたの脳は本当に壊れたわけではないということを理解でき、少しは安心できるかもしれません。脳は与えられた環境下でやるべきことをやっているだけなんだ、ということなんです。私たちが見たり聞いたり感じたり、というすべての感覚は、脳のあちこちの機能が発火しているという意味で正常なことなんです。つまり、
    A)脳が動いている。
    B) 脳が動くべくして動いている。
    C) これらの機能発火を続けながら脳は回復作業を行っている。

    ところで、なぜうつ症状と不安症状があるか?

    とても複雑なんですけど、すべてのシステムは相互作用しています。と同時に、GABAとグルタミン酸が存在する身体のあらゆる場所で回復作業はつづいています。(そう、GABAとグルタミン酸は身体中に存在します。腸、胃、眼球、皮膚、足の先…神経が通ってない場所なんてありませんよね?)私たちがベンゾを服用する前には感じていなかったことでありそして今感じているあらゆる苦痛症状は、回復プロセスにおけるフェアトレードなのですよ。たとえば“幸せだ”と感じるセロトニンを合成する能力を取り戻すプロセスなんかも含まれます。推測できますでしょう? 巨大な建造物が再建築中にセロトニンが効果的に作られていない、いや作られるわけがない。だから1日か2日ほど“幸せ”を感じてもすぐにセロトニンが枯渇し、気分は落ち込んでしまう。あ!― ところで ― セロトニンはGABAとグルタミン酸を放出する神経への命令伝達の手伝いもします。なので、セロトニン合成にGABAが必要なこと以上に、GABA放出コントロールのためにセロトニンが必要なんです。こんな卵か鶏かみたいな問題に、どのようにして相互作用させ続けながら回復させるのか!神よ、不思議でなりません。あなたは凄いことをしています。本当に。

    以上は神経生理学において何が起こっているのかを知るための、限られた情報です。非常に簡潔な説明であり、詳細に渡った記述ではありません。そして、「脳のどの部分が影響を受けたか」よりも、より重要なポイントがあります。わたしが本当に述べたいことは ― “離脱症状が再構築中の脳のどの部分に結びついているか”、それを知ればその状況下で離脱症状自体が良い兆候であることがわかり、安心できる、ということなんです。侵襲的な記憶の遡上がないと、― それは恐ろしく、恐怖の混じったものになるでしょうが、― でもそれがないとあなたの記憶領域は回復しないのです。記憶領域とは海馬(hippocampus)です。

    それが回復なのです

    そのように考えてみてください。恐怖が沸き起こったら、こめかみを指でタップし、“わかる。いま海馬が回復中だ。オーケーオーケー”と呟いてみて。もしこうしたことが起きてくれないと、つまるところ回復していないということです。私たちがまだベンゾの錠剤を口に入れている間は、元の自然のバランスに戻るためには離脱症状は必然なんです。(そう。あなたがゆっくりとしたテーパリングをしているならより小さな症状で回復していきます。一気断薬 ― 恥ずかしいことに私がしてしまったことですが ― の場合はより激しい症状で回復していきます)

    というわけで、あなたが離脱症状を抱えている時は、それは回復が進んでいる証左でもあるのです。

    最後に、服薬がなくなった、とします。― はい、つまり断薬です。そして、“回復”となります。ベンゾは(体内から)なくなった。もはや“悪魔の薬”は存在しない。症状は残ります。ですがその症状はキツイかもしれませんが“敵”ではありません。悪魔と思われるものは、ただわたしたちの脳が正確にやるべきことをやっているだけのものなんです。この時点でわたしたちに起きていることはもはや“ベンゾビースト”ではないんです。(^-^)/。脳が回復しているんです。“ベンゾビースト”と呼びたい方々を侮辱するわけではないですよ、それはたしかにこの世のものとも思えないほどキツイ症状ですから。でもほんとうに、あなたはビーストと戦っているわけではないんです。戦う必要さえありません。ただ過ぎ去るのを待つだけ。巨大なビルの再構築が建設中なのです。そしてすぐに、鉄骨フレームは以前より強靭に起立します、オフィス家具は新品になってあるべき場所におさまります、エレベーターは再びその本来の運用を始めるでしょう。そしてオフィスワーカー達は再び、オイルを継ぎ足した機械のように機敏に働き始めます。脳の再構築作業と戦おうとしないでください。それはすべて回復です。わたしたちに起きているすべてが治癒の証左であるのです。

    この話がみなさんを、そしてみなさんの家族を勇気づけることを願っています。もしあなたがご家族であれば、私たちベンゾ被害者は、自動車事故などで損傷を受けた被害者が感じるトラウマほどには影響を受けていないことをご理解ください。長期間かかりますが、寛容でいてください。なぜなら、私たちの脳は治癒しており、私たちは再建の過程にあり、私たちの機能は一時的に有効にされ無効にされ、そしてまた有効にされ無効にされ、と、まさに波(waves)のようですが、それはまったく正常であり、予想された挙動なのです。昏睡状態にある患者が目を覚ます、それは“祈る”しかありません。しかしそれは脳がそうできるようになった時、そうなります。患者の意思で目を覚ますわけではありません。だから私たちのそばに立って、愛の言葉をかけ、毎日私たちを安心させてください。私たちが調子いいときは勇気づけ、調子の酷い時はただ抱きしめ“大丈夫だ”と言ってあげてください。自動車事故で脳損傷を受けた家族とまったく同じことを私たちベンゾ被害者にもしてあげてください。

    そして寛容を。

    - Parker



    追記

    あるバディから『身体症状についてはどう解釈されますか?』という素晴らしい質問がありました。
    身体症状についても理論的な解釈を試みる価値があると思いました。ということで、回復途中で感じる、うずき、刺すような痛み、焼けるような痛み、アカシジア、など、これらの離脱身体症状についても時間をかけて考察してみたいと思います。追記としてこの投稿に追加する形にしますね。まず最初に言わせていただくと、わたしは理論化することしかできません。わたしは医者ではありませんから。ただわたしは論理的セオリーが非常に役に立つ、なぜなら私たちが対処している症状に意味と物語をもたせることは、わけがわからない!、よりも大きなアドバンテージになると思うからです。敵を知れば百戦危うからず、です。多くの情報源 ― 神経再生や「脳の仕組み」などから類推してみると、だいたいすべて皮膚や筋肉の痛みに関係していそうです。まずは、外科手術の分野から、“外傷後の神経再生”に関する良い記事があります。

    以下、一部引用:
    『正常な神経再生に関連する通常の事象として、痛みを伴うことがあります。神経の再生端、芽と呼ばれますが、移動すると互いに接触し、構造タンパク質と接触します。その活動により引き起こされる衝撃が脳により痛みとして認識されるのです。これは神経再生中には仕方ないことであり鎮痛剤やなんらかの治癒が必要になるかも知れません。痛みは予想されたとおりの事象であり、回復のための痛みであると理解することが、患者にとっては痛みに対応するのに十分役立ちます。痛みはひとつではなく、交感神経系のオーバーアクティビティとも関係しているので、痛みの領域は異なる色となます、ピンクだったり紫だったり…そして通常、痛みのない部分よりも体温は冷たくなります。』
    http://www.riversongplasticsurgery.com/pdfs/nerve_injury_nerve_reconstruction_recovery.pdf

    ええ、この記事はべつに「ベンゾ関連神経障害」については述べていません。神経を圧迫され、切断され、押しつぶされるという物理的な外傷によって引き起こされる神経損傷について述べています。ではこの記事から読み取れることはなんでしょうか。もし交感神経系が、回復途中にある神経系が発する痛みと関係があるならば ― いえ、関係はあるのですが ― 私たちが回復途中で痛みを感じることは正常なことであると仮定できます。私自身離脱初期において、シャワーを浴びて出ると、脚と腹部にピンク色の斑点ができていました。2ヶ月ほど、それらは明るいピンク色をしていましたが、じきに消えていきました。それがなんだったのか、わかりません。でも急減薬する前はなかったものです。斑点は対称的でもなければ特定のパターンもありません、でもつねに同じ場所に現れていました。シャワーから出たあとだけです。神経系が回復途中で皮膚発赤、刺激、痒み、その他おかしな皮膚症状と関係しているに違いないと思われます。同様に、離脱症状として皮膚が冷たくなる感覚、燃えるような感覚、刺すような痛みがつづいていました。それから、皮膚が濡れてもないのに濡れている感じがしたりしました。しかしもう一度、― これは回復です。上記の引用文のとおり、『痛みは予想されたとおりの事象であり、回復のために痛みがあると理解することで、患者にとっては痛みに対応するのに十分役立』つのです。だからといって痛みがマシになったりするわけではありませんが、少なくともその痛みによって不安がることはないのです。なぜならそれは正常なことであり、回復の印なのですから。

    アカシジア、これについてはどうでしょうか。
    まあ、調べたところでは、アカシジアの原因は100%明らかになっていません。脳内のドーパミン作動性またはノルアドレナリン作動性(ドパミンおよびノルエピネフリン、もしくはノルアドレナリンとも呼ばれる)に関連しているようです。これらは神経伝達物質であり、わたしにはアカシジアの原因とは思われません。しかしアカシジアは多くの精神薬 ― ベンゾだけではないです ― の副作用として現れます。精神薬は脳内化学を変え、そしてドーパミン作動性とノルアドレナリン作動性を変形させていまいます。だから、大丈夫。理にかなっています。わたしたちは脳を変える薬を服用しました。― そしてアカシジアを発症している人がいる。いかがでしょう。かなり正常なことに思える。もちろんこんなことはけして楽しいものではありません。でも、ノーマルなことなんです。出たり出なかったり、そしてじきに消えてなくなくなります。私に関しては、断薬後8ヶ月間まったくアカシジアを発症しませんでした。なので8ヶ月たって起きた時は衝撃でした。

    残酷で恐怖。

    そして数週間してそれはなくなってくれました。その後も、出たり出なかったり、でも最悪な症状まではいきませんでした。今となっては、まあ困る、という程度の症状です。バスタブに浸かってちょっと大泣きすれば完全に収まる、というところです。浴槽を使えなければ少し我慢して待つと過ぎ去ります。ともかくも、全部が全部、正常なことなんです。出たり引っ込んだり、あちらこちらでホントにわたし苦労してますけど、これらは脳の中で車輪が回り続けているサインです。すべてはシフトし、リバランスしようとしているのです。ですから正常なこと、とても不快で時にはどうしようもない症状ですが、“良い痛み”として脳と神経機能が回復している証拠なんだと理解することはできます。

    同様に、傷が治癒してかさぶたができるとその下の再生された新しい皮膚はなぜ痒いのでしょうか。なぜこんなことが起きるのでしょう。『回復中の傷口の痒みはかさぶたの下で新しい細胞がどんどん再生されていくからです。新しい細胞がかさぶたの下で成長し、新しい皮膚層が形成されていくと、かさぶたはこの活動範囲内で引き伸ばされます。これが痒みをもたらします。やけどの場合は痒みでなくうずきに感じるかも知れません。熱によって皮膚の油脂層が焼かれ乾き破壊されているかもしれないからです。神経が再生され成長すれば、それは信号を受信できるようになります。すばわち痒みという感覚を感じることができるようになる。再生中の皮膚は他のどこよりも薄いので、神経は外部にさらされています。ですから痒みは回復の兆しです。(メイヨークリニック)』もうおわかりのように、巨大で複雑な感覚システムは100%その仕組みをが理解されたわけではありません。が、ある程度傾向があります。さまざまな調査から、神経再生はあまり好ましくない感覚をもたらす。ええ、イメージに反して、回復は痛みである(*^_^*)。つまり、痛みはさらなる損傷ではなく、損傷からのリバース、つまり再生なのです。ええ、素晴らしいわね、でも…それで? 私はそして何かできたのか?この回復過程にわたしが発見したこと、それは自身の神経を混乱させることでした。可能な限り、ですけど。

    え、なんですって? 神経を混乱させる?

    あなたは切り傷や虫さされをどうするか知っていますよね。すぐに指で患部を押さえつけて痛みを和らげようとしませんか? あなたがそのようにしているのは患部にある神経すべてにプレッシャーをかけることで、患部領域全体を「脱感作し」ているわけです。つまり傷口の痛みがあなたの脳が感じる感覚の唯一すべてというわけではないですよね。患部に圧力をかけることで、傷口の痛みとはまた別の“カウンターアクション”(押されている感覚)を感じるのです。こうして他にも感覚を騙すことができるカウンターアクションがあります。
    ・熱さ
    ・冷たさ
    ・強い圧迫
    ・マッサージ
    ・メントールのようなクリーム
    これらすべて、わたしには役に立ちました。ひとつづつ見ていきましょう。

    -熱さ-
    わたしはほとんど毎日バスタブに浸かりました。いまでも浸かってます。アカシジアのピークにはバスタブに住んでました(*´v`)耐えられる限界まで湯を熱くすることが役に立ちました。お湯の熱さがわたしの脳を占拠するのでバスタブに浸かっている時はアカシジアを感じることができないのです。一時的に神経信号を混乱させ、安堵できました。もちろん、こんな日々は大変で嫌悪そのものですよ、でも、そうやってなんとかやり過ごすことができたのです。同じように、痛みに対してはヒーティングパッドがわたしの友達でした。

    -冷たさ-
    顔や手の、焼け付くような痛みに対しては冷たく冷やした濡れタオルを使いました。簡単ですけど役立ちます。先月は3日に一回は“ファイアーフェイス”、顔が焼け付くような症状が発生したのですが、そのたびに冷たい濡れタオルを顔にあて、“これは回復だ”と思い続けてやり過ごしました。そして今はもう、症状はなくなりました。

    -圧迫-
    寝る時は15パウンド(7kgくらい)のブランケットを使用しています。オンラインショップで注文しました。
    ブランケットには小さなポケットがいくつもあって、“圧迫感”を作るために、そこに重さのあるボールを入れて重くすることができるのです。このような圧迫は気持ちを落ち着かせることに効果があります。療法士がよく自閉症の子供の寝かしつけに使用しますが、不安障害の人にも効果があります。
    わたしはヒーティングパッドと一緒によく使いました。そうして十分な睡眠がとれたのです。

    -マッサージ-
    これは効果ありますでしょう!でもあまり効かない時もありました。夫によく頭と脚の指圧を頼みました、“そう、そこを押して”、“こすらないようにして”とお願いしながら。こすりすぎで肌が痛くなりましたが、指圧はよく効いて助かったわ。プロによるマッサージは筋肉をほぐすのによかった。それを予約する作業が、まだ対ストレス性能が弱っているわたしには躊躇するものでしたけど笑

    -クリーム-
    笑われるかも知れませんが、“ファイアーフェイス”のときに試しにヴィックスヴェポラッブを塗ってみたんです。なにしろ赤ん坊用のものだからわたしにも安全だと思ったんです。効きました!なんとまあ、その日一日中心地よかった。症状が消えるまで2〜3日ずっと塗ってました。それから背中が痛いときは“アイシーホット”を使ってみました。神経を混乱させるのと同じ理屈です。神経が熱い、とか、冷たい、を感じることに忙しいとき、同時に“痛い”まで感じることができないのです。だから短期間であれば、痛みがあるにもかかわらず痛みを感じなくさせることができます。

    以上がわたしが試したことすべてです。あなた方もきっと他にも自分なりのやり方、あるでしょう?(*^_^*)
     
    いよいよまとめです。

    1)回復がつづいている。
    2)損傷のような激しい痛みは実際は損傷ではありません。それらは神経の矯正・再生です。痛みは回復途中で単に“発火する”ものである。
    3)私たちはいくつかの症状に対処することができます。
    4)症状はいずれ消えてなくなります。

    このように理解することで感覚を“修正(fix)”できるわけではないとわかっています。わたしが痛みの真っ最中にあるときに、だれもわたしに声をかけ痛みをマシにするなんてことはできませんでした。わたしができたことは、対処し、泣き、やり過ごすことだけでした。しかし離脱症状というものが身体にとって正常の働きであり、悪化しているわけではないと理解すること;実際改善していきましたし、それを知ることから得られるものがあると思います。

    わたしにはまだまだ離脱症状がたーーーーーくさんあります。いずれなくなりますように。

    ベンゾバディの皆さん、ありがとう。

    - Parker

    (翻訳&注釈:ベンゾジアゼピン情報センター 管理人


    著者:Parker (ベンゾバディでのハンドルネーム)
    Parker (ベンゾバディでのハンドルネーム)

    大学の修士課程で神経解剖学と生理学を学び、speech-language pathology修士号を獲得したベンゾ離脱当事者。女性。

    ベンゾバディのプロフィールより:産後不眠症でクロノピン(クロナゼパム・リボトリール・ランドセン)0.5mgとアンビエン(マイスリー・ゾルピデム)10mgを処方され2年間服用しました。2011年10月3日に一気断薬。断薬後12ヶ月レメロン(ミルタザピン、リフレックス)を服薬しました。レメロンのおかげでベンゾ離脱症状がキツい間、睡眠と食事が可能になりました。ベンゾ傷害が十分に回復してからレメロンも水溶液で減薬しました。GABA作動薬でないかぎり、それが助けになるのであれば他剤の使用をあまり怖がることはありません。