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    ベンゾジアゼピン依存症におけるフルオロキノロン系抗菌薬のリスク

    原文:HIDDEN DANGERS OF FLUOROQUINOLONE ANTIBIOTICS IN THE BENZODIAZEPINE-DEPENDENT POPULATIO

    著者:

    ブラッド・ヴェレット(生化学者) Brad Verret

    投稿:2017年10月12日

    副鼻腔感染症であろうと気管支炎であろうと、ほとんどの人は人生で何度か抗生物質を服用します。抗生物質は時に命を救いますが、他のあらゆる薬と同様にリスクを伴います。特に、フルオロキノロン系の抗生物質薬は、ほとんどの人が気づいていない深刻なリスクを伴います。抗生物質耐性が蔓延する現世代において、新世代の抗生物質は、効力が強化されメリット、デメリットが両方存在します。たとえばプロフロキサシン(Cipro)、オフロキサシン(Floxin)、ノルフロキサシン(Noroxin)、レボフロキサシン(Levaquin)、モキシフロキサシン(Avelox)、およびゲミフロキサシン(Factive)など。

    化学的に言えば、フルオロキノロン類の作用機序はある種の化学療法薬のそれと密接に似ているため、この強力な薬剤は、もっと軽度の、もしくは自力の免疫力だけで治癒する比較的良性の感染症に処方すべきではないです。フルオロキノロン類のユニークなリスクの1つに、他のほとんどの抗生物質とは異なり、普通の用量で神経学的な作用があることです。抗菌効果に次ぐ作用として、脳、脊髄および末梢神経系の特定の受容体に結合します。影響を受ける受容体は、ベンゾジアゼピンが作用するのとまったく同じ、GABA-A受容体です!

    フルオロキノロンがGABA受容体に結合すると、ベンゾジアゼピンのような中枢神経抑制薬の作用とは正反対の結果が得られます。フルオロキノロン類は、GABA-A受容体のアンタゴニストであり、GABAの結合を妨げ、ベンゾジアゼピン類などの受容体に結合した他の分子を置換することができることを意味します。フルオロキノロンによって引き起こされるGABA受容体遮断は、軽度の不眠症および激越から幻覚および発作まで、いろいろな神経学的徴候を伴うCNS刺激作用をもたらします。誰もがこれらの副作用に苦しむ可能性があります。しかし特にベンゾジアゼピン服用者は、これらの有害な神経精神医学的反応を起こす可能性が高いです。

    原因は、ベンゾジアゼピンによってもたらされたGABA受容体のダウンレギュレーションです。ベンゾジアゼピンが慢性的に(10日を超えて)与えられる場合、薬物によるGABA受容体の過剰刺激に照らして神経学的平衡を回復させる一連の下方補償メカニズムが働きます。この結果、GABA受容体は、ベンゾジアゼピン類へ長期にわたり暴露された後、徐々にGABAを受容しにくくなります。時間が経つと、脳のGABA受容性の系が弱まり、外部ストレスに対する脆弱性が高まります。

    フルオロキノロンが、ベンゾジアゼピンによってダウンレギュレーションされたGABA受容体を「アンマスキング(裸にする)」すると嵐のような神経興奮が起きます。さらに、それらは結合する標的が同じなので、フルオロキノロンは、GABA受容体結合のためのベンゾジアゼピンと濃度依存的に競合します。フルオロキノロンとベンゾジアゼピンが同時にGABA受容体に結合すると、研究では複雑な相互作用を示しています。高濃度では、フルオロキノロンは、GABA受容体に結合したベンゾジアゼピン分子の一部を置換します。この変位は、急性ベンゾジアゼピン離脱症候群を引き起こすことがあり、これはベンゾジアゼピン投薬量を突然減少させる場合に起こるであろうものと同じです。

    各GABA受容体がアクセルペダルおよびブレーキペダルを有すると想像してください。 GABAレセプター全体は、アクセルペダルとブレーキペダルとともに、活動ペースを制御するニューロンに固定されています。ベンゾジアゼピンのようなGABAアゴニストがブレーキペダルのように作用し、フルオロキノロン類のようなGABAアンタゴニストがアクセルペダルのように作用します。アゴニストがブレーキペダルのように作用すると、塩化物イオンが受容体を通ってニューロン内に流れます。塩化物イオンは、ニューロンを減速させる静電性接着剤のようなものです。拮抗薬がアクセルペダルのように作用すると、塩化物の流れが止まり、ニューロンの速度が上がります。

    アゴニストが長期間存在すると、ブレーキペダルは徐々に消耗してしまいます。さらに、ニューロンは、アクセルペダルをさらに踏んでニューロンが適切なペースで稼働し続けることができるように、追加で化学的メッセンジャーを募ります。それは不安を引き起こすようなペースかもしれないが、ニューロンが神経回路内で目的を果たすことができる適切なペースではあります。ベンゾジアゼピンによって慢性的に減速されてしまったため、ニューロンはその効果を断ち切りたいのですが、薬物は相変わらず入ってきます。したがってこの薬理学的抑圧を克服するために次第により激しく抵抗し戦おうとします。 キノロンは、ブレーキを解除してアクセルペダルを踏むことでニューロンの化学結合を解き放ち、解放されたニューロンが制御不能になり始めると一種の神経短絡を引き起こします。

    イブプロフェンのような特定の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、フルオロキノロン類によるGABA受容体遮断の原因を強化し、その神経毒性を増強し、それらのCNS副作用を悪化させることが示されています。 NSAIDは、副鼻腔炎および尿路感染のような痛みを伴う感染のためにフルオロキノロン抗生物質とともに頻繁に処方されています。 シプロフロキサシン(Cipro)を含む一部のフルオロキノロンは、コーヒー、紅茶、チョコレートに含まれるカフェインや他のキサンチンアルカロイドの代謝に関与するCYP1A2肝臓酵素の阻害剤です。ですので、シプロフロキサシンが摂取されるとカフェインに対して感受性が強くなります。したがって、ベンゾジアゼピン服用中にコーヒーや酒類も摂取すると、フルオロキノロン誘発発作および精神神経障害のリスクがさらに高くなります。

    神経科学の領域外の多くの医療従事者が、フルオロキノロン系抗生物質に関するこういった事実を知らないことは残念なことです。フルオロキノロン - カフェイン相互作用は十分に文書化されているが、フルオロキノロン - ベンゾジアゼピン相互作用は現在、現行の薬物相互作用交差検査システムにおいて認識されていません。ほとんどの薬剤師はこの問題を認識しておらず、フルオロキノロン処方をベンゾジアゼピン服用者に容易に処方しています。この相互作用はまったく認識されていませんが、それはベンゾジアゼピン依存者を危険な状態にさせる深刻な問題です。研究によれば、ベンゾジアゼピン服用者は、フルオロキノロン系抗生物質に暴露されると、うつ病、不安、精神病、パラノイア、重度の不眠、感覚覚醒、耳鳴り、軽度および強過敏症、振戦、発作などを引き起こします。

    これらの症状はすべて、急性ベンゾジアゼピン離脱症候群と一致します。さらに、フルオロキノロンに暴露された個体が急性症状を発した後フルオロキノロンを中止しても元に戻るのに数週間または数か月を要することもあります。これは、興奮性グルタミン酸含有シナプスがGABA活性の欠損により過剰刺激される場合に生じる長期的なアクセルペダル増強によるものかもしれません。また、フルオロキノロン前の状態に戻れない個体もあります。一般にそれは、「フロキュレーション」されていると言われています。これらは、興奮性神経毒性(興奮毒性)および脳損傷と末梢神経障害、筋力低下、認知機能障害、新規の精神病または悪化した精神病、さらには麻痺を含む病状が残されます。

    こういったことをすべて考慮すると、より多くの医療従事者を教育すること、および正常で健全な人々を障害者にしてしまうような危険な相互作用を認識し公然と認めることが不可欠であります。しかし、これだけではまだ十分ではありません。ベンゾジアゼピン依存の個体がこの相互作用を認識して、彼ら自身が自己防衛することも同様に重要です。慢性的ベンゾジアゼピンの使用はしばしば化学物質の感受性を引き上げることが知られており、通常の人々が許容できるさまざまな異物を避ける必要があり、フルオロキノロンはおそらくそのリストの最上部に位置するでしょう。

    すべての医師が、フルオロキノロンをベンゾジアゼピン服用者に処方することは、潜在的永久的な重大な障害の危険性を有することに注意する必要があります。フルオロキノロン類は、非メディカルなベンゾジアゼピン濫用を含むすべてのシナリオにおいて禁忌にするべきです。臨床医は、フルオロキノロンが考慮される前に、すべての選択肢を探索すべきです。まれに、フルオロキノロンを投与できないと死に至る可能性があると判断された場合は、フルオロキノロン投与治療の全期間にわたってベンゾジアゼピン用量を増加させるしかないでしょう。

    (翻訳&注釈:ベンゾジアゼピン情報センター 管理人


    著者:ブラッド・ヴェレット(生化学者) Brad Verret
    ブラッド・ヴェレット(生化学者) Brad Verret

    生化学者で元医学生。ダウケミカルに入社しポリマー分子特性評価に携わる。2011年医学生時代にザナックス(アルプラゾラム・ソラナックス)を服用したことによりベンゾ傷害に。体調悪化とともに多発性硬化症様症状を発症しそのように誤診される。2014年ベンゾ離脱症候群と気づき、約1週間の急減薬で断薬、その後数か月の離脱症状による生き地獄をへて再服薬しバリウム(ジアゼパム・セルシン)に置換、1年かけてテーパリング減薬した。2016年8月に減薬完了。
    ベンゾ医原性諸症状についての啓蒙にいそしみ苦しむ人々に希望を与え続けたものの、2017年に他界。