書籍『ベンゾ系睡眠薬・抗不安薬の安全な離脱方法 改訂版』(A5版284ページ)販売中)

    論文:ベンゾジアゼピン薬害:どのようにして減量するか?

    Benzodiazepine harm: how can it be reduced? PMID: 22882333

    著者:

    Malcolm Lader

    投稿:2012年10月10日

    Abstract
    ベンゾジアゼピン(BZD)は、抗不安薬、睡眠薬、抗けいれん薬、筋弛緩薬のことで、麻酔にも使われる。副作用には、過度な鎮静と認知および精神運動性の障害がある。運転などの複雑系スキルが損なわれる可能性がある。奇異反応は法的な意味合いを持つ。承認期間(licensed durations)を超える長期使用は非常に一般的に行われているが、これに関連する有効性と悪影響が十分に文書化されていない。離脱と身体依存(dependence)については特に懸念されていて論争にもなっている。おそらく、長期(6か月を超える)服用者の3分の1が、薬物から離脱を試みる際に不安、不眠、筋けいれん、緊張、知覚過敏症などの離脱症状を経験する。まれに、突然発作や精神病様症状を併発することがある。離脱後のパターンはさまざまである。離脱方法は通常ゆっくりと漸減した後中止する。しかし漸減によって問題が完全になくなる、というわけではない。BZDはそれ自体もそうだし、オピオイドや覚醒剤と組み合わせた乱用薬物でもある。 BZD使用が死亡率の増加に関連しているという研究があり、この薬があまりにも広範囲に使用されていることを考慮すると、これは懸念事項である。BZD使用にあたっては、リスク対ベネフィット比と適応症の重症度に対し、すべての要因を秤にかけるべきである。ハームリダクション(訳注:個人ならびに社会がもたらす危害(ハーム、 harm)を軽減する(リダクション、reduction)ための社会実践のことは、心理的および薬理学的代替治療の選択に焦点を当てるべきである。ガイドラインでは、BZDは第一選択薬ではなく短期的な使用に限るということが強調されている。スローテーパリングの重要性を強調する漸減マニュアルが利用可能である。依存症分野(addiction field)におけるハームリダクションの一般原則は、BZD乱用(BZD abuse)においても適用できる。

    Introduction
    ベンゾジアゼピン(BZD)は、抗不安、催眠、筋弛緩、抗けいれん、麻酔として適応である。不安や不眠に対処するための処方が最も一般的であり、またそれが最大の問題を引き起こしている。英国国民医薬品集(BNF)1はこの区分に従ってジアゼパム、オキサゼパム、ロラゼパムなどを抗不安薬と睡眠薬の両方のカテゴリーに記載している。世界的にはさらに多くの種類のベンゾジアゼピンが処方可能であり、処方パターンは各国で大きく異なる。BZD使用の悪影響と傷害(harm)はBZD薬全体で発生しているにもかかわらず、である。ただし、悪影響の出方と重症度は、BZD薬および短時間作用型睡眠薬(「Z薬」)のピーク血中濃度と作用期間によって異なる。
    この記事では、BZDの悪影響、短期および長期、そして身体依存(dependence)と乱用(abuse)の可能性について簡単に説明する。このセクションでは、最近の簡潔なレビュー2を大いに利用することとしよう。ただし、薬の全体的な評価は一般的に、亜集団、適応症の重症度、代替薬の入手可能性、そういったことも配慮しながらその有効性も考える必要がある。これについては、BZD問題を代表する“慢性使用”とあわせて概説する。最後に、タイトルを「ベンゾジアゼピン傷害:どのようにそれを減らすことができるか?」という質問文にしたものの、この質問に対する膨大なご意見とそれによって巻き起こる論争をこの紙面でお伝えすることは困難であろう、と述べておく。

    Adverse effects
    副作用についての研究はある程度されているものの中途半端なままである。BZD3が世に出てから半世紀経つが、長期使用に関する副作用の認識にはいまだにギャップがある。主観症状としての倦怠感や不快感をともなう鎮静作用は、服用量と密接に関連している。通常それは、自覚症状に耐性が生じるのですぐに治まる。高用量の場合、特にアルコールと併用された場合は過度に鎮静し、不安定さ、発話の不明瞭さ、見当識障害が見られる。治療用量でも認知障害および精神運動障害は起きる。つまり、BZDを抗不安薬として日中に数回服用したり、前夜に睡眠薬として長時間作用型BZDを服用した場合、認知障害および精神運動障害が1日中続く場合がある。短時間作用型睡眠薬であれば朝のみであろう。客観的効果は長期使用者でも持続する可能性がある4。記憶機能はBZD作用にとりわけ敏感なようで、これもアルコールとの併用によって増幅される。記憶対象が複雑になるほどその障害は大きくなる。多様な試験を組み合わせたメタアナリシスは、特に言語記憶テストにおいて明確な障害を示している6
    BZD抗不安薬または睡眠薬の投与前、投与中、投与後に、可能であれば薬物かプラセボをランダム投与する二重盲検条件下で、さまざまな機能を測定することによって多くの有益なデータが取得可能である。しかしこのような研究は例外であり、通常、3つの時相のうち2つだけを用いる。このような神経心理学的検査のメタアナリシスでは、BZD中止後6か月までは認知機能が改善したものの、その後は依然として不完全な機能水準のままであった6.。高齢者は特にリスクがある7。.全体として通常、着実な離脱を行えば、すぐにとはいかないがゆっくりと改善に至る。 とにかくも、相変わらずあらゆる文献に一貫性がないままである。
    実験室ベースの調査だけでなく、運転などより複雑なスキルにおける安全性へのBZD影響について評価されている8。疫学研究では、BZDの使用と交通事故との関連も示されている9。メタアナリシスでは、事故リスクが50%以上増加すると推定されている10-12
    その他の事故や怪我もBZDを使用している人々によく見られる。 転倒と股関節骨折が非常に注視されており、高齢者では、特に降圧薬や抗うつ薬などの他剤が併用されている場合、股関節骨折の発生率が50%以上増加する可能性がある13
    注意事項を導入する必要がある。 不安神経症や不眠症はそれ自体さまざまな機能を損なう可能性がある。 鎮静薬による治療は、不安や不眠による機能不全を改善しパフォーマンスを向上させるだろうが「適応による交絡(confounding by indication)」という薬物誘発性障害によってある程度打ち消されてしまう。  向精神薬に関する研究で、この問題に適切に対処しているものはほとんどない(10, 152ページ参照)。
    奇異反応は望まれざる悪影響であり、法的な意味合いもある。 BZDの抑制効果は不安増大、急性興奮、多動を引き起こす可能性があり、敵意と怒りの出現により攻撃的な衝動が解放され、その結果、暴行やレイプなどの犯罪行為が記録されている14
    長期使用の危険性については以前に触れた。 認知障害や精神運動障害などいくつかの悪影響は長期にわたって持続する可能性があり、それらを検出するには緻密な技術が必要になるケースがある。眠気といったその他の主観鎮静副作用は、おそらく耐性がついてなくなるだろう。交絡する問題は、向精神薬を服用している患者が、時間の経過とともに元のレベルの感覚と機能を見失う可能性があることである。投薬が中止された場合にのみ、患者は自分の感情とパフォーマンスが最適ではなかったことに気づくわけである。 治療での投薬が正確なランダム法ではないから、BZD非使用者との比較というのは難しいだろう15
    長期BZDユーザーは年をとるにつれ、薬に対してより敏感になる。 これはおそらくニューロンの数と受容体が減少し、一定のBZD用量が受容体を占有する率が高くなるためである。障害が増えると認知症の誤診、いわゆる「偽認知症」につながる可能性がある16
    睡眠薬の長期使用はたとえ低用量であっても、死亡率増加と関連があると報告されており(以下を参照)多くのBZD使用者は服薬を中止したいと考えている。

    Withdrawal and dependence
    WHOは依存症を、物質を摂取したいという強い欲求または強迫観念があること、服用をコントロールできないこと、耐性と離脱症状があること、と定義している。離脱症状は、特に高用量で連用した精神作用物質を中止または減量したときに起きる症状のことである。BZDを取り巻くすべての問題の中で、離脱症状は最大かつ永続的な懸念を引き起こしている。一部の声高な専門家や人々が、BZDが医原性依存症(iatrogenic addiction)を引き起こしていると非難する一方で、身体依存発生率が低く(low incidence of dependence)重要で有用な薬としてBZDを擁護する人々がいる。こういった議論、あるいはむしろ非難合戦は、悲しいことに確固たる証拠に基づいていない。
    多くの処方薬において投薬中止は問題を伴うことがある。 BZDに関しては、最も一般的な現象は睡眠薬のリバウンドであり、これは睡眠ポリグラフ18で定量化できる。睡眠薬を中止すると不眠症は以前よりも重い症状で再現され、寝つきが悪くなり睡眠が乱れその持続時間が短くなる。このリバウンドは通常一晩か二晩でおさまるものであるが、患者がパニックになり投薬を再開することもある。
    離脱症状というものは、リバウンドよりもずっと深刻な現象である。それは抗不安薬または睡眠薬を中止または減薬することで生じる特徴的な一連の兆候と症状で構成される。 BZD離脱症候群の前兆はさまざまである。 多くの人がBZDを開始し、効果が不十分であると感じたり、しばしばストレスが多い時に主治医に用量を増やしてもらうよう頼みこむ。 通常、患者はその用量に落ち着き、数ヶ月、数年さらには数十年もそのまま飲み続ける。少数の患者がさらに用量を上げ高用量BZDユーザーになる。離脱の試みにはBZD離脱症候群が伴い19、20、それはバルビツール酸塩またはアルコールの離脱症状と同じクラスのものである。こうした患者はBZDに身体依存している(being dependent)と見なされ、服用者の約20%がそうなり、その他の服用者は難なく服薬を中止できる21。高用量、高力価、長期使用といった要因が身体依存形成と関連があるとされる。
    離脱症状には、不安、不眠、悪夢、記憶障害、集中力欠如、筋けいれんなどがある。羞明や聴覚過敏などの知覚過敏も一般的である。患者は体調がすぐれず体重が減る。通常2〜4週間で治まるが、よりずっと長びくこともある。さらに深刻で稀有な離脱反応に発作や精神病様症状が含まれることがある。多くの症例は事例報告であり、ケースシリーズはほとんど存在しない22
    テーパリングでの離脱に関する最新の前向き研究では、その過程において4つの症状パターンが特定された。すなわち、重症度ゆるやかな低下、離脱初期の悪化と中止後のゆるやかな改善、離脱後に重症度上昇、変化なし、である23。高い発症率が報告されている24.。離脱プロトコルは多数存在するが( 例25)、プライマリケアでは最小限の介入で十分であることが多い。 通常は心理的治療が役立つ。
    患者の約3分の2が、ゆっくりとしたテーパリングスケジュールで完全に中止できる。残りの3分の1はある程度の減薬を達成する。 しかし繰り返し離脱に失敗すると衰弱してしまい、低用量服薬の継続が最適な結果になる場合もある。

    BZD abuse
    治療の過程で高用量になってしまったケースと、娯楽や違法使用によってBZD乱用となってしまったケース、その2つには明確な線引きが必要である。BZDは広く誤用されているが26、そのパターンは国や地域によって異なる。たとえば、週末に大量服薬する人がいる一方で、高用量を継続的に服薬する人もいる。経口使用を続ける誤用者もいる一方で、コカインのように静脈内注射したりスニフしたりする人もいる。液体カプセル、入手可能性、薬物動態など製剤に応じてさまざまなBZDが乱用されている。テマゼパムとフルニトラゼパムは誤用されやすいという評判がある。さらに、オピオイドの陶酔効果を高めたり、コカインのオフセットを減らしたり、アンフェタミンなどの乱用薬物と複雑に相互作用させたりするために、多剤乱用のひとつとしてBZDを誤用する者もいる。また、他の乱用薬が不足して高価になったとき、一部のアディクトはBZDに目を向ける。ウイルス感染や局所組織壊死などの静脈内使用に関連した危険性がよく知られている。オーバードーズは、とりわけ他剤との組み合わせにおいて危険である。さらに、BZDによるアルコール抑制作用の増強という危険性は、しばしば記憶喪失を伴う犯罪行為につながる。パターンがどうであれBZDは間違いなく危険であり、BZDの潜在的な害として誤用(misuse)や乱用(abuse)があることを認識すべきである。

    Mortality
    短期使用であれ長期使用であれ、その悪影響の多くは生死に関わるというよりも苦痛症状であり、ほとんど可逆的である。しかしながら最新のデータは、低用量睡眠薬の場合でも死亡率の増加と関連していることを示している27。データ結果が有力メディアに掲載されたため、このことは大衆の警戒心を呼び起こし重大なものになった。データはペンシルベニア州の大規模統合医療システムによって提供されたもので、電子カルテにアクセスし、性別、年齢、喫煙状況、処方期間でグループ化して、睡眠薬を投与された10529人と睡眠薬処方のない23676人を照合した。サンプルは平均して2年半モニタリングされた。年間0.4錠〜18錠、18錠〜132錠、132錠以上、の範囲で処方された患者で、それぞれのハザード比は3.60錠(95%信頼区間 2.92、4.44)、4.43錠(3.67、5.36)、5.32錠(4.50、6.30)であった。したがって、睡眠薬頓服ユーザーでさえ2年半で死亡する潜在リスクが通常の3倍以上ということになる。この解析では病中患者への睡眠薬処方は除外して述べている。しかし睡眠薬服用患者におけるさまざまな身体的疾患との合併症の発生は、あまり有意な増加を示しておらず、ごくわずかな割合にとどまっている。結果は憂慮すべきものだし、この研究はすでにファイルされ、他の同様のデータベースを使用しても簡単にトレースできる。研究の調査対象集団はすべて外来患者であり、なんら集団背景はないと思われる。
    6つのコホート研究と3つの疫学研究のメタアナリシスは、治療目的使用と違法薬物使用がともに死亡リスク増加と関連していることを示唆している28

    Usage
    使用パターンは異なるものの、多くの国でBZDが大量に使われていることが文献で示唆されている29。さまざまな使用法研究で異なる方法が採用されつづけ、データが不均一すぎてメタアナリシスが維持できていない。英国のある研究では、抗不安薬使用率は15〜44歳の年齢層で0.4%、45〜64歳で0.8%、65歳以上で1.9%となっている。睡眠薬の場合は0.3%、1.4%、5.2%である。BZD抗不安薬の使用率は過去20年間ほぼ同じ。睡眠薬はZ薬に置き換えられ大幅減少となっている。
    オランダのある研究によると、「不適切」使用の相関関係には、精神的または肉体的に脆弱な人々、特に高齢者に対する使用があるとしている31
    高齢者、女性、精神的健康状態の悪さ、および身体的健康状態の悪さは、特に睡眠薬長期使用と関連があることを文献は示唆している。そして、身体依存リスクのある長期使用者ということであれば、うつ病やアルコール問題を抱えていた人々が特に含まれるとしている。

    Efficacy
    BZDとZ薬は、メリットもデメリットも含め、さまざまな薬理学的特性をカバーしている。その薬物動態特性は超短時間作用型と超長時間作用型とで大幅に異なる。つまり結果として、BZDの有効性は多くの考慮事項に左右されると言ってよい。そして長期使用についての非常に重要な考慮事項として、耐性という複雑な要素がある。
    最も適切な評価は、リスク:ベネフィット比である。少なくとも短期使用における副作用はすでに文書化されている。ではベネフィットは何であろうか?
    最新のメタアナリシスで、全般性不安障害(GAD)の薬物治療に関する27件のランダム化比較試験が系統的にレビューされた32。ここに出てくるベンゾジアゼピンはロラゼパムだけであり、おそらく診断カテゴリーとしてGADが確立されるよりも前にBZDが登場したことを反映してのことであろう。奏功と寛解(response and remission)ではフルオキセチンが1位にランクされた。忍容性(tolerability)はプレガバリンが1位。ロラゼパムはほとんどランクされず。しかしデータが不十分であり、そのことについて著者はほとんどコメントしていない。
    睡眠薬に関しては、多くの研究がベンゾジアゼピンとZ薬をプラセボと比較している33、34。処方が集中している高齢者を対象とした、24もの研究調査がメタアナリシスによって示されている35。プラセボと比較すると睡眠薬は睡眠の質を改善し、総睡眠時間を増加させ、中度覚醒が減少することがわかった。しかし、副作用は通常のほぼ5倍となった。 著者らは、睡眠は改善されたものの総合的効果は「小さい」と結論付けた。特に60歳以上での使用には正当化できないリスクの増加が伴うということであった。

    Choice of treatment
    不安障害や不眠症の臨床管理については数多くのガイドラインが存在する。英国国立医療技術評価機構(NICE)36によって発行されたものがもっとも多く利用される。不安に対しては選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択薬とされ、SSRIまたはセロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)抗うつ薬が合わない患者にはプレガバリンを使うとしている。BZD使用は重大局面での短期使用のみとされ、GAD治療の一次ケア、二次ケアにおいては除外されている。BNF(訳注:British National Formulary、英国国民医薬品集)の忠告はいつまでも生き続ける知恵である。
    ❝ベンゾジアゼピンは、機能不全になるかまたは認容不可能な苦痛をもたらす重度の不安、不眠、短期的心身症、器質性または精神病性疾患に対して、短期的緩和(2〜4週間)のみ適応である。
    短期間の「軽症」不安治療のためにベンゾジアゼピンを使用することは不適切である。❞
    NICEのアドバイスは代替案を示していないが、薬理学的観点からも治療的観点からも、Z薬をBZDと区別できないとして却下している37
    ❝ベンゾジアゼピンは、不眠症が重度で、機能不全になるかまたは認容不可能な衰弱をもたらす場合にのみ使用すべきである。❞

    Reduction of harm: a personal view
    【治療開始にあたって】
    これまでのオーバービューで、BZD使用に関連する害、実際の有効性、使用範囲、代替治療薬に関するガイドライン、について評価してきた。これらの問題はそれぞれまだ議論の余地がある。しかし、半世紀にわたって利用され続けた事実そのものが安全性を担保していると主張するBZD愛好家たちによって、リストされた危険性は無視されている。さらに、害(harm)という言葉が処方妨害になるとみなす人々もいる。同様に、適応の重症度(不安神経症と不眠症)に関してもまたさまざまな意見がある。BNFは、SSRIおよびSNRIの使用が認められる適応、すなわちGADに相当する重度不安においてのみ、BZD薬剤の頓服および短期処方が正当化されるとしている。NICEは、BZDは重大局面における短期的な手段であるとしている。
    睡眠薬も同様に、機能不全になるような重症不眠症の場合のみ、頓服として使うものとしている。
    BZD抗不安薬や睡眠薬と、不眠症で使われるZ薬には違いがある。GADの治療には、SSRI、SNRI、プレガバリンなど、実績があり有効な薬が使えるし、かつ適切に承認されている。BZD睡眠薬の唯一の代替薬は、メラトニン徐放製剤(Circadin)38であり、それも55歳以上の不眠症に対してだけである。適応外代替薬には、ミルタザピン39などの鎮静性抗うつ薬、および鎮静性抗ヒスタミン薬がある。オレキシン拮抗薬などのBZDではない睡眠薬が利用可能になれば、現在の代替薬が少ない状況はすぐに変わる可能性がある。
    不安であれ不眠であれ適応内であろうと、また処方対象となる問題・症状がどんなに小さかろうと、BZDを使用することで大きな臨床的問題につながりかねない。最近はインターネットの利用増大によりさらに簡単にBZDにアクセスし易くなっている40
    私の意見であるが、BZD処方を開始する妥当性というものは、短期間使用(抗不安薬の場合4週間未満、睡眠薬の場合2週間未満)が長期漫然使用につながってしまうのをどう防ぐか、にかかっているということです。しかし、重症の不安や重症の不眠に対してそのように処方を限定してしまうことは、問題をもっと複雑にしてしまうかもしれない。そのような状況で処方を中止したくないであろうから。長期使用の危険性について患者に知らせることは不可欠であるが、それゆえに患者が服薬を躊躇することも多いだろう。なにしろ、難なく減薬から中止できる患者、他剤に置換できる患者、長期使用にならざるを得ない患者、を前もって区別できる明確な指標は存在しない。SSRI / SNRIなどへ置換できたとしても、それらに身体依存するリスクもまた、依然としてある。
    結局こういった問題を避けるためには、とにかくもBZD処方を避けましょう、というスローガンが必要といえる。しかしこのスローガンは誰の耳にも届かず、過去20年間BZD処方数はまったく減少していない、という無残な結果となっている30
    BZD薬剤の使用について多くの議論が巻き起こっているわけだが、それにしても長い間、社会心理学的補助療法は代替手段でしかないままだ。力動精神療法は確かに役に立つ。しかしその有効性について根拠が乏しい。 認知行動療法(CBT)はうつ病、GADで実績がある。不眠症治療では現在開発中であり、認知行動療法の有効性はまだ確立されていない。英国では、資格のあるセラピストが不足している問題があり、結果、受診するのに非常に待たされるという状況である。薬物療法と心理的治療の組み合わせが、重篤な患者にとっておそらく大きなメリットであるが、ほとんど研究が行われていない。
    【すでに服薬中の患者に対して】
    高齢者の睡眠薬使用者など、すでにBZDを服用している数十万人の患者はどうすれば良いか?テーパリングに関するガイドラインはすでに広く公布されている25、41。しかし、このアドバイスは薬理学的原則に基づいている。離脱レジメンへの最適なアプローチに関する経験的実証はまだ乏しく、混乱を招いている42。テーパリングは効果的でないとする意見さえあり、認知行動療法と組み合わせることで中止できるとしている43。他にも、他剤を離脱の支援薬として使うなど、いくつかのストラテジーが小規模の研究で試されている。確固たる結論というものはない44。プレガバリンがメラトニンを長期放出する46として、近年ある程度の可能性を示した45
    NHS(訳注:National Health Service、国民保健サービス)にあきらかに不足しているのは、依存症部門(Addiction Units)とは別にBZD身体依存(BZD dependence)を扱うクリニックがないことである。不安に悩む主婦や不眠に悩む高齢者は、依存症部門(Addiction Units)に紹介されてしまい「ジャンキー」のレッテルを貼られることを恐れている。しかしながら、BZD専門機関ネットワークの確立を求める声は無視されてきた。GP(訳注:General Practitioner、総合診療医、かかりつけ医)からのアドバイスといった簡単な方法で、BZDの使用を減らしたり中止できる確率が非常に高くなるにもかかわらず、である47。ネットワークがあれば、専門医への紹介が必要なのは減薬なり中止に失敗した時だけで済む。何十年にもわたってBZDを服用している長期ユーザーもいて、そういった場合離脱の試みは無益かもしれないが、症状と身体機能をモニタリングし続ける必要はあるだろう。
    漸減ペースが議論の的になっている。数ヶ月または数年にわたる漸減期間を要する患者もいるが、いずれにしてもどれほどの期間が必要かを予測することはできない。たしかに、驚くほど簡単に中止できる長期服薬者もいる。2〜3か月以上かけた漸減を目安にしつつも、症状がひどくなる場合は応じてペースを落とす、というのがよりベターな臨床アプローチになるだろう。
    ハームリダクションは、依存症(addiction)の分野でも幅広く使われている概念である48。それにより、局所膿瘍やHIV、肝炎などウイルス性疾患の伝染など重篤な有害事象を最小限に抑えるために注射には滅菌水を利用する、といったような、薬物使用習慣を奨励することにつながった。ベンゾジアゼピン乱用にはそれほど厳密ではない対策が適切である。
    結論として、多くのBZD処方は、不特定適応での処方(「適応外処方」)であったり、承認された使用期間または投与量を超えていたりする。BZD薬使用に関する公式の推奨事項は広く無視されている。このような慣行は、臨床ケアのスタンダードに関わる法的問題を提起する。 英国であれば、GPRD(訳注:Clinical Practice Research Datalink、イギリスの大規模外来データ)データからGPによるBZD処方期間を継続的に分析することで、慢性処方のチェックができる。BZD薬(およびZ薬)を長期間使用している患者に注意を向ける必要がある。 同様の調査は他国でも実行可能なはずである。

    Declaration of Competing Interests
    この論文作成にあたって私は資金援助を受けていません。時々ファイザー社にて講演することがあります。いかなる他媒体において、全文であれ一部であれ、この論文は掲載されていません。

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    (翻訳、注釈:ベンゾジアゼピン情報センター 管理人


    著者:Malcolm Lader
    Malcolm Lader

    ロンドン大学キングスカレッジロンドン精神医学研究所 臨床精神薬理学教授。
    ベスレムロイヤルアンドモーズリー病院(医大付属病院) 名誉コンサルタント。
    医学研究評議会 外部研究員。
    WHOアドバイザー(精神医療における薬物使用分野)。
    アメリカ精神医学大学 名誉研究員。
    国際精神薬理学大学 副学長。
    依存症研究会(Society for the Study of Addiction) 会長。
    英国精神薬理学会 会長。

    1978年から1989年まで医薬品審査委員会メンバーとして医薬品承認審査に携わる。
    1981年から2000年まで内務省の薬物乱用諮問評議会メンバーおよびその技術委員会の委員長。

    生化学、医学、薬理学、精神医学、生理学の専門医資格を持ち、主な研究対象は、精神医療で使われる薬剤とその副作用について。論文は約630(ベンゾジアゼピンに関するものはそのうち100以上)、また15冊の書籍を執筆。