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    ベンゾ、耳鳴り、および神経調節

    原文:BENZOS, TINNITUS, AND NEUROMODULATION

    著者:

    Perseverance

    投稿:April 24, 2014

    耳鳴りには多くの原因が考えられますが(5)、本稿ではベンゾジアゼピンが関与する機序と潜在的な治療法に焦点を当てます。
    耳鳴りはベンゾジアゼピンと関連しており、ベンゾジアゼピン断薬後も長期間つづく耳鳴りが報告されています。 (5、6)皮肉なことに、ベンゾジアゼピンは耳鳴りの症状を軽減することもまた示されています。 耳鳴りの機序は神経同期仮説にあると多くの研究者は信じています。 このモデルでは、聴覚皮質のニューロンが過活動状態になります。この仮説を簡単に説明します。 最初に、音が外耳から脳へどのように伝わるかを見ることから始めましょう。


    上の図を参照すると、音の振動(または音波)が外耳道に入り、そこで鼓膜に当たっています。 鼓膜はこれらの音波に同調して振動します。 それが振動すると、それは中耳(MalleusとIncus)の一連の小さな骨を動かします。そしてそれは内耳の蝸牛と呼ばれる流体で満たされたチューブに振動を運びます。 蝸牛内部の液体は、繊毛と呼ばれる小さな毛を振動させます。繊毛は、蝸牛神経(別名聴覚神経)に付着しています。 これらの繊毛の動きは神経を刺激し、そして脳に信号を送りこれらの信号を私たちの聞く音に処理します。 (7)
    また、耳と脳の間にはたくさんの段階があります(下記(8)を参照)。あなたがこれを知ることは重要です。


    耳と聴覚皮質(脳の聴覚部分)との間の聴覚経路に沿った段階(上記)のいずれかに問題があると、耳鳴りを引き起こす可能性があります。これは、聴覚信号が存在しない場合聴覚皮質内のニューロンが誤動作する可能性があるためです(これについては後で説明します)。したがって、聴覚信号が脳内の聴覚皮質に到達するのを妨げるあらゆる状態が耳鳴りを引き起こす可能性があります。
    たとえば、大きな音や耳毒性の薬品などによって、蝸牛内の小さな有毛細胞に損傷が発生した場合、蝸牛神経に信号を伝達することはできません。それは聴覚皮質への信号経路を混乱させ、耳鳴りを引き起こします。
    聴覚皮質は、実際に音が「聞きとる」脳の一部です。聴覚皮質のニューロンは、それらが最もよく反応する音の周波数に従って編成されています。聴覚皮質の一端にあるニューロンは低周波に最もよく反応します。下に示すように、他方のニューロンは高周波に最もよく反応します。 (9、14)このタイプの配置は、トノトピーとして知られています。 (13)聴覚皮質内のニューロンのこれらの各セクションはそれぞれ異なる周波数の音に反応するので、特定のセクションが入ってくる聴覚信号によって活動すると、そのセクションによって発火される音の周波数が「聞こえる」ことになります。

    聴覚皮質は聴覚信号経路の混乱を好みません。聴覚皮質のどの部分も信号を受け取らないと、その部分の神経細胞が過活動状態になる可能性があります。神経同期仮説によると、耳鳴りは部分的に聴覚障害を受けている(入ってくる聴覚信号が通常よりも低い)一次聴覚皮質(Primary Auditory Cortex )の周波数領域のニューロン間(among neurons in frequency regions)において、同期活動(synchronous activity)が生じると発生します。 (3)
    言い換えれば、聴覚入力が本来より低い場合、これは内耳の損傷が原因である可能性があり、聴覚皮質のニューロンが過剰に活動的になる可能性があります。ニューロンの発火率は増加し始め、それからニューロンの異常な同期発火パターンはニューロンが同時に電気信号を発射するところで増大する。科学者はこの同期活動を「神経同調」と呼びます。耳鳴りの音を生み出すのは神経同調です。この仮説は、なぜ難聴が耳鳴りを引き起こすのか​​を説明しています。 (3、12)これは神経同期がどのように見えるかを示すアニメーションへのリンクです。 
    http://www.mind.ilstu.edu/curriculum/neural_synchrony/neural_synchrony.php?modGUI=233&compGUI=1824&itemGUI=3153
    そしてニューロンの過剰活動が発生している聴覚皮質のセクションは、あなたが聞く耳鳴りの音の周波数を決定します。
    ニューロン活動の増加は興奮として知られています。反対に、ニューロン活動の減少は抑制と呼ばれます。 GABAは抑制のために脳によって使用される主要な神経伝達物質です。 GABAがニューロンの受容体に結合するとそれはニューロンの活動を低下させます。したがって、GABAは抑制神経伝達物質として分類されます。
    神経細胞ネットワークの患部における信号情報の刺激と抑制との間の不均衡は、活動亢進および同期化をもたらす。言い換えれば、耳が聴覚皮質の神経細胞に話しかけるのを止めるとき、彼らは自分たち同士で通話し始め、耳鳴りを作り出すでしょう。 (12)
    何人かの研究者は、GABA作動性メカニズムの先天的欠陥が耳鳴りの病態生理学に関与しているかもしれないと信じています。 SPECTイメージング研究は、何人かの耳鳴り患者において内側側頭皮質におけるベンゾジアゼピン結合部位の減少を示した。 「ベンゾジアゼピン欠乏症候群」さえ存在するかもしれないことも示唆されました。 (4)
    抑制が失われると、ニューロンは興奮しやすい状態になります。従ってベンゾジアゼピン投与によりGABAの作用を増強することによって抑制を高めることができ、それが耳鳴りの有効な治療法であることが示されています。しかしながらです。ベンゾジアゼピンの中止は、長期の耳鳴に関連していることも示されています。 (5、6)耳鳴りの治療に使用されていた薬が、耳鳴りの原因になる??
    研究者たちは考えを整理しようとしています。ベンゾジアゼピンが原因の耳鳴は以下のような理由によるものと仮説しました。
    1)耳毒性効果。 2)GABA A受容体のダウンレギュレーション。 3)グルタミン酸活性の増加。 4)ベンゾジアゼピンはセロトニン神経伝達物質系への変化を誘発した。 5)ベンゾジアゼピンはGABA A受容体の脱共役(uncoupling)を誘発した - これは、既存の受容体における恒久的な立体構造変化、内因性調節GABA − A受容体リガンドの産生、リン酸化の変化、またはGABA − A受容体サブユニットの置換などのことです。 (4、5、10)
    ベンゾジアゼピンが耳鳴りにどのように関与しているかにかかわらず、多くの科学者は耳鳴りは聴覚皮質の過剰興奮したニューロンに由来し、治療はこのニューロンの過剰活性の抑制に焦点を当てるべきであると考えています。 (5)
    研究者たちは、耳鳴り患者が自分の耳鳴りの周波数に一致した音を聞いたとき、しばらくすると耳鳴りが消えることを発見しました。彼らは耳鳴りの音と一致する音を「マスキング音」と呼びます(3)。
    マスキング音の停止後に耳鳴りが減少する期間は「残留抑制」または「RI (residual inhibition)」と呼ばれます。研究者は、マスキング音が過剰活動を静める抑制反応を引き起こすと理論づけました。彼らは、RIを発生させるためには、耳鳴りの大きさを超えるレベルで少なくとも10秒間マスキング音を提示しなければならないことを発見しました。 (3)
    これらの研究は、音響協調リセット神経調節療法 (CR®) と呼ばれる、神経同期仮説に基づく比較的新しい療法の開発につながります。音響CR神経調節療法は、ドイツのANM Medicalの研究者によって開発されました。私はこのデバイスが英国で承認されていることを知りましたが、他の国で承認ステータスを見つけることができませんでした - それで私は彼らにこの情報を要求する電子メールを送りました。返事があったらこのスレッドに返信します。
    音響協調リセット(CR®)神経調節療法デバイスは、脳に耳鳴りの音を「聞き忘れさせる(unlearn)」トーンを使用することによって機能します。聴覚皮質内の活動亢進した同期神経細胞を標的とする特別なトーンが使用されます。目的は、病的なニューロンの同調性を混乱させて非同期状態を達成することです。非同期化プロセスを繰り返すと、神経細胞は活動亢進および同期性を段階的に手放すことを「学ぶ(unlearn)」であろうというものです。 (1、11)
    音響調整リセット(CR®)神経調節療法がどのように機能するかを説明するビデオです。
    https://www.youtube.com/watch?v=fIAjJogJ0cs
    これは複雑な概念を素人の言葉に置き換えて説明している偉大なオーディオビジュアル動画です。ぜひ見てみてください。YouTubeで「耳鳴りの治療 - 耳鳴りの原因と治療(Tinnitus Treatment - Causes and treatment of tinnitus)」を検索して見つけることもできます。
    過去に特定のトーンを聞いた後に耳鳴りが減少したことがある場合は、このタイプの治療法について医師に相談してください。アメリカ耳鳴り協会は耳鳴りの音のリストを持っています。
    あなたが特定のトーンを聞いた後にRIを経験するかどうか見るために無料のテストを提供するHushTinnitusドットコムのようなウェブサイトもあります。 HushTinnitusは、RIを誘発するためのトーンの使用について広範な研究を行ったClyde Witchardによって開発されました。 (15)この種の治療によってメニエール病などの特定の障害が悪化する可能性がある場合は、必ず医師に相談してください。
    音響協調リセット(CR®)神経調節療法がベンゾジアゼピン誘発耳鳴に対して有効であるかどうかはまだわかっていません。ここのベンゾバディメンバーのうちの誰かが母国でこの療法にアクセスすることができて実際にやってみる、そしてこのスレッドでフィードバックしていただけるととても助かります。
    参考文献

    鳴っている耳:耳鳴りの神経科学
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3073522/

    クロスモーダル可塑性は一次聴覚皮質領域における抑制の増加をもたらす
    http://www.hindawi.com/journals/np/2013/530651/

    (-1-バクロフェン、クロナゼパム、およびジアゼパムの効果)
    ラットにおける下丘の曝露誘発性過興奮性
    の薬理学的管理に対する考えられる治療的意義
    耳鳴りと聴覚過敏
    https://www.utdallas.edu/~amoller/publications/332.pdf

    動物モデルにおける耳鳴、単極性刷子細胞、および小脳グルタミン酸作動性機能
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3681784/
     
    References
    1)   http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3710266/
    2)   http://www.ata.org/sounds-of-tinnitus
    3)   http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2580805/
    4)   http://www.tinnitusjournal.com/detalhe_artigo.asp?id=231
    5)   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2832848/
    6)   http://www.benzo.org.uk/busto.htm
    7)    http://www.fi.edu/fellows/fellow2/apr99/auditorypath.html   
    8 )    http://www.dana.org/Publications/GuideDetails.aspx?id=50018
    9)    https://en.wikipedia.org/wiki/Auditory_cortex
    10)    http://www.medscape.com/viewarticle/767520_1
    11)   http://anm-medical.com/index.php?option=com_content&view=article&id=75&Itemid=99&lang=en
    12)   http://anm-medical.com/index.php/en/crr-technology/scientific-principles
    13)   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2830355/
    14)   http://www.d.umn.edu/~jfitzake/Lectures/UndergradPharmacy/SensoryPhysiology/Audition/TonotopicMaps.html
    15)   http://www.residualinhibition.com/residual-inhibition.pdf

    (翻訳&注釈:ベンゾジアゼピン情報センター 管理人


    著者:Perseverance
    Perseverance

    ベンゾバディにおけるプロフィール:10年間ザナックス(アルプラゾラム・ソラナックス)服薬、その後6年間アチバン(ロラゼパム・ワイパックス)服薬。バリウム(ジアゼパム・セルシン)に置換後、依存専門病院でわずか3日間で減薬される。2011年1月21日ベンゾジアゼピン系薬を断薬。その後ニューロチン、オキシコドン、プロザックなどをテーパリング減薬。
    (訳注:ベンゾバディでPerseverance自身のバックグラウンドについての質問に本人が回答している。電気設計エンジニアであるとのこと。回答の一部を翻訳;「わたしは医療関係者ではありません。わたしのバックグラウンドは電気設計エンジニアです(笑)。しかしベンゾ離脱という厄災にあってやむなく勉強する羽目になって思うのは、人体と電子回路には非常に多くの共通点があるということでした。そのためさまざまな論文や医学文献を水を吸い込むように理解できたかもしれません。」)