書籍『ベンゾ系睡眠薬・抗不安薬の安全な離脱方法 改訂版』(A5版284ページ)販売中)

    論文:ベンゾジアゼピン身体依存の治療

    Treatment of Benzodiazepine Dependence PMID: 28328330

    著者:

    Michel Soyaka

    投稿:2017年5月13日

    伝統的に、物質使用関連障害を定義するために様々な用語が使用されてきた。これらは、「中毒」、「誤用」(精神障害の診断と統計マニュアル、第4版[DSM-IV] 1)、「有害な使用」(国際疾病分類、第10版[ICD-10] 2 )、および「依存」。薬物の長期摂取は薬物に対して耐性を形成する(すなわち、効能を得るために必要な量が増加するかまたは長期継続使用により十分な効果を感じなくなったりなど)。中毒とは深刻な医学的または社会的影響があるにもかかわらず、激しく薬物を求める行動を起こしたり薬物が欲しくてたまらない欲求にかられること、と定義されている。DSM-IVおよびICD-10は、有害な薬物使用を薬剤の使用における様々な身体的、精神的反応であると定義し、その身体的、精神的反応の一連の連鎖を依存と定義づける。ICD-10によると、以下の項目の3つ以上に当てはまる場合それを依存と診断する。1.強烈な薬物摂取欲求、2.薬物使用を自分で制御できない、3.離脱症状、4.耐性、5.薬物摂取以外の事柄への無関心、6.有害な結果をもたらすにもかかわらず継続摂取する。DSM(DSM-5)4の最新版は、様々なアプローチから試みるも乱用と依存のカテゴリー分けについては断念している。
    薬物摂取障害のキーは、用量の増加、耐性、薬物への渇望、そして制御喪失である。これらの診断基準および定義はベンゾジアゼピン処方薬を含むあらゆる種類の乱用薬物に使用されている。しかしこの基準は、精神疾患患者が処方薬を依存的に服用している場合のほうが健康な人々がリクリエーション目的で違法に使用する場合よりも少々問題がある。
     
    ベンゾジアゼピン
    薬理学的特徴
    臨床診療に導入された最初のベンゾジアゼピンは1960年に市場に導入されたクロルジアゼポキシドであった。現在約35のベンゾジアゼピン誘導体が存在し、そのうちの21が国際的に承認されている。(www.emcdda.europa.eu/publications/drug-profiles/benzodiazepine)。これらはすべてγ-アミノ酪酸(GABA)A型(GABAA)受容体上の特異的部位に結合し、抑制系神経伝達物質であるGABAに対する受容体の親和性を増加させる。(図1酸性型A(GABAA)受容体の薬理学的特性)。GABAに対するGABAA受容体の親和性が大きいほどクロライドチャンネル開口の頻度が増加し、中枢神経系(CNS)におけるGABAの抑制効果が増強される。したがってベンゾジアゼピンは受容体に直接作用効果を有さない。GABA A受容体は様々なサブユニット(α1〜α6、β1〜β3、およびγ1〜γ3)および変異体で構成され、催眠剤はおもにα1サブユニットを介して作用する。GABA A受容体機能は特定の放射性トレーサーを用いた陽電子放出断層撮影法(PETのこと。管理人注1)によって測定することができる。
    薬理学的にはベンゾジアゼピンは抗不安薬と睡眠薬とに明確に分けることはできない。それらは結局、原始的な催眠作用物質に置き換わりより危険性が高い。ベンゾジアゼピンはよく吸収されしっかりとタンパク質に結合する。ベンゾジアゼピンは基本的に2つの物質に代謝される。ひとつはグルクロニド抱合およびミクロソーム酸化。いくつかのベンゾジアゼピンは既にヒドロキシル基(例えば、オキサゼパムおよびロラゼパム)を有し、その結果グルクロニド結合によって直接代謝される。このグループは大概半減期が短いタイプ。しかしながら、ほとんどのベンゾジアゼピンは結合前に脱メチル化または酸化されており、したがってより長い半減期を有し蓄積するリスクがある。多くのベンゾジアゼピンは薬理学的に代謝産物を有する。(TABLE 1 代表的なベンゾジアゼピンの薬理学的分類および半減期)短時間作用性ベンゾジアゼピンは、催眠薬(トリアゾラムなど)としておよび長期作用性のベンゾジアゼピンを抗不安薬または抗けいれん薬(例えば、ジアゼパムおよびクロナゼパム)として使用される。短い半減期のベンゾジアゼピンがより依存性が高いといういくばくかの証拠がある。ベンゾジアゼピンはまた麻薬の鎮静効果をより高める。
     
    臨床使用
    ベンゾジアゼピンは、その臨床効果に基づいて抗不安薬および催眠薬に分けることができる。しかし、原則としてすべてのベンゾジアゼピンは、抗不安薬、催眠薬、筋弛緩薬、抗けいれん薬および健忘症の作用を有する。ベンゾジアゼピンはたとえばアルコール依存症患者の離脱症状の緩和に使われる。ベンゾジアゼピンは短期間の使用(2〜4週間)では比較的安全であるが、その安全性はその期間を超えて確立されていない。そして1か月以上の服用者の半数が依存形成される。単剤使用の場合の重症中毒症状のリスクは低い。
     
    副作用
    ベンゾジアゼピンの主な欠点や依存による副作用は、眠気、嗜眠、疲労、過度の鎮静、昏睡、昏睡、翌日のハングオーバーの影響、集中と注意の障害、依存の発症、やめた後の症状のリバウンド(つまり元々の症状の復活、一般的には反跳性不眠)、低血圧および運動失調。ベンゾジアゼピンは、運転能力を著しく損なう可能性があり、交通事故の危険性の増加、ならびに転倒、骨折につながる。重症筋無力症、運動失調、睡眠時無呼吸症候群、慢性呼吸不全、脊髄小脳性運動失調、角膜閉鎖緑内障または急性CNS鬱剤中毒の患者はこの薬物による治療を受けてはならない。逆説的な反応は、高齢の患者(> 65歳)では珍しくない。精神運動障害と認知機能障害(記憶喪失、集中力の欠如、注意欠陥)である。ベンゾジアゼピンは高齢者の不眠症、激越、またはせん妄の治療には推奨されていない。もし処方されるとしても短い期間に抑えるべきである。長期のベンゾジアゼピンの使用が、脳の萎縮および認知症に関連があるかどうかは物議をかもしている。
     
    ベンゾジアゼピン依存症
    神経相関
    腹側被蓋領域および側坐核は脳の中脳辺縁領域の一部であり、これらの領域でドーパミン放出を引き起こす薬物は一般的に中毒性の可能性がある。前頭前皮質への神経突起は「中毒ネットワーク」における重要なつながりである。Tanらによる画期的な研究では、ベンゾジアゼピンは隣接する介在ニューロンにおけるGABA A受容体を変調させることにより、腹側被蓋領域内のドーパミン作動性ニューロンを刺激する。腹側被蓋領域におけるα1含有GABA A受容体との特別な関連性が指摘されている。この研究結果はベンゾジアゼピンが他の濫用ドラッグと同様のメカニズムで作用することを明らかにしている。(管理人注2
    疫学的特徴
    米国でのベンゾジアゼピン処方数は1996年から2013年にかけて大幅に増加した。オーバードーズよる死亡者数は10万人あたり0.58人から3.07人となり、2010年以降となっては4人以上。ただベンゾジアゼピン以外の処方薬も含まれてはいる。オピオイド維持療法を受けている患者の約46〜71%がベンゾジアゼピンを服用している(ドイツ人患者では44%)。ベンゾジアゼピンはオピオイドの呼吸抑制作用を増強する。2016年8月31日、米国食品医薬品局(FDA)は、オピオイド痛または咳嗽薬とベンゾジアゼピンを併用した場合、死亡などの重大なリスクについて薬物安全通信を行った。この発表では「医療従事者は、ベンゾジアゼピンとオピオイド鎮痛薬の併用処方を制限すべきである」と警告している。
    米国における処方パターンとは対照的に、欧州におけるベンゾジアゼピンの処方は過去数年間で大幅に減少している。それにもかかわらずベンゾジアゼピンは世界中で最も頻繁に使用されている精神病薬の1つである。長期的な使用イコール依存、というわけではない。最近のデータによれば、新しくベンゾジアゼピン処方される患者の35.8%が3ヶ月後にもこの薬物をまだ使用し続け、15.2%が1年間、そして4.9%が8年間使用している。一般の人口の3%は長期的にベンゾジアゼピンを使用している。長期使用の標準定義はないが、最も一般的な定義は6〜12か月である。ベンゾジアゼピンまたはいわゆるz薬(ベンゾジアゼピン系のものと同様の効果を有する非ベンゾジアゼピン系薬剤であり、その大部分は文字「z」(例えば、ゾルピデム、ゾピクロン、およびザレプロン)は、精神病の病歴および薬物使用量の大増量と関係がある。ドイツでは過去20年間にz薬の使用が増加しており、これはベンゾジアゼピン使用の減少の一部を補うものと考えられている。
    疫学研究によると、ドイツの230万人の人々がベンゾジアゼピン依存である。DSM-IVの基準に基づいた計算で、睡眠薬中毒率は男女合わせて0.8%(男性1.4%、女性1.3%)。ベンゾジアゼピンの使用は年齢とともに増加する傾向がある。スイスでは14.5%の患者にベンゾジアゼピンを12ヶ月以上投与したと報告している。Neutelはカナダの人口の4.1%でこれらの薬が誤用されていることをつきとめた。米国ではHuangらがこの薬物ファミリー、つまりベンゾにおける睡眠薬については1.1%、抗不安薬については1.0%の中毒率を報告している。
    米国における2008年のデータの回顧的調査では、18歳から80歳までの人の5.2%がベンゾジアゼピンを使用し、65歳から80歳の人の8.7%がベンゾジアゼピンを使用したことが示されている。女性のほうが男性の2倍使用率が高い。長期服用者はサンプル服用者の4分の1であった。Mooreらは、より厳格なコントロールを推奨しておりベンゾジアゼピンは精神科医だけが処方すべきであると提言している。しかし問題は議論の余地があって、ベンゾジアゼピン依存症の高い罹患率と中毒サービスセンターにおける非常に低い治療率との間には特に著しい食い違いがある。
     
    臨床的特徴
    1961年に報告された研究では、精神的に健康な人にクロルジアゼポキシド(300〜600mg)を投与。それからプラセボに切り替えたところ、突然の離脱が発作、せん妄、および精神病を引き起こすことを発見した。ベンゾジアゼピンの特有の特徴は、耐性の形成なく、身体的精神的依存を引き起こすことである(つまり低用量での依存)。ベンゾジアゼピン依存症者の典型的な行動特徴は、ドクターショッピング、異なる薬局から処方箋を得る、重複する処方、などである。(表2TABLE2のベンゾジアゼピン依存症の行動相関)。高齢者のベンゾジアゼピン長期使用は、精神科医による処方箋、定期的使用、高用量の使用、多剤処方にもつながっている。
     
    離脱症状
    長期間のベンゾジアゼピン使用後の禁断症状の症状は、通常、短時間作用物質(2〜3日以内)が長時間作用物質(5〜10日以内)よりも早く発症する。ほとんどの離脱症状は脳の過興奮性の状態に関連し、身体的、精神的および感覚的症状に分けることができる。最も穏やかな禁断症状は元々の症状が再現するだけであり、特に睡眠障害に使用されるベンゾジアゼピンからの離脱に共通する反跳性不眠である。離脱の最も一般的な身体的症状は、筋肉の緊張、衰弱、けいれん、痛み、インフルエンザ様症状(発汗や震え)、「ピンと針」。最も一般的な精神的離脱症状は、不安とパニック障害、不穏食欲不振、頻脈、視力障害、視覚障害、口渇などがあり、耳鳴り、眠気など。それから離人感(周囲が現実ではないと感じる)。知覚の障害は比較的一般的であり、尋常性聴覚から光恐怖症、感覚異常までの範囲である。これらの症状は特徴的ではないがベンゾジアゼピン離脱の特徴である。発作は非常に一般的。特にいきなり断薬した場合には。重度の離脱症状には、妄想思考、幻覚、脱個体化、および退行性せん妄が含まれる。(TABLE3:ベンゾジアゼピン離脱症状および合併症。TABLE4: 重度のベンゾジアゼピン離脱症候群または中毒)。
     
    治療
    離脱症状の治療
    数多くの研究やコクランのレビューでは禁断症状の治療法が検討されている。全般的なコンセンサスは、発作を予防し重度の離脱症状を避けるためベンゾジアゼピンを数週間(例えばジアゼパムの用量が> 30mgを超える場合は4〜6週間以上)徐々に中止しなければならない。退薬率はしばしば離脱症状に耐える人の忍耐力によって決定される。勧告はベンゾジアゼピンの初回投与量を毎週50%減らすか、または2週間ごとに1日用量を10%〜25%減らすこと。4〜6または4〜8週間はほとんどの離脱患者の入院期間に適しています。可能であれば、離脱治療が患者の「うつ病への起点」(訳注:原文はmorbid focus)にならないようにするために、数ヶ月にわたる長期間の減量は避けるべきである。(管理人注3
    ジアゼパムのような長時間作用型薬剤に切り替えるかどうか、それが基本的に利点があるかどうかはの判断はむつかしい。つまりそれは減薬方針がブラインド減薬であるべきかどうか、という考察と同じである(つまり患者に減薬量を知らせない)。だが、多剤ベンゾジアゼピンは、1つ、好ましくはジアゼパムの使用に変換されるべきである、とは考える。短時間作用型ベンゾジアゼピンからの離脱は、長時間作用型薬剤からの離脱よりも脱落率が高いが、短い半減期のベンゾからより長い半減期のベンゾへの切り替えはより良い結果をもたらすともなんともいえない。正確な期間での比較的固定された離脱スケジュールが推奨される。外来でうまくいくこともあるが、高容量の場合は入院すべき(毎日100mg以上のジアゼパムに相当する用量)。オピオイド維持療法を受けている患者では、オピオイド(例えば、メタドン)の用量はベンゾジアゼピン減薬期間を通して安定して維持され、オピオイド離脱症状を予防するのに十分安定して高容量を服用すべき。(>150 mg per day)。オピオイドアゴニストであるブプレノルフィンは、完全アゴニスト(例えば、メタドン)よりもベンゾジアゼピン関連の過剰摂取のリスクが低い可能性がある。オピオイド退薬とベンゾ退薬の同時進行は推奨されていない。ベンゾ(もしくはアルコール)と併用している場合、オピオイドの投与量が不足してたらオピオイドの離脱症状を緩和するためにオピオイドの投与量を調整する必要がある。
    ベンゾジアゼピン離脱のために精神薬を併用することは症状指向で実用的である。ベンゾジアゼピン系疾患の治療薬は承認されておらず、関連する研究はほんの一握りしか発表されていません。うつ病、不安、または統合失調症の患者ではセラピープログラムとベンゾジアゼピンの使用の両方を扱う統合治療プログラムが推奨されています。薬物療法のエビデンスに基づいたベンゾ離脱治療法はほんの少数しか利用できない。症状治療にはうつ病や睡眠障害のための抗うつ薬、気分安定薬、特にカルバマゼピン(200mg /日)が含まれる。また、臨床上のエビデンスは限られるが、非ベンゾジアゼピン系抗不安薬、プレガバリン、ガバペンチン、ベータブロッカー、非ベンゾジアゼピン催眠薬はオプションになりうる。プレガバリンのようなGABAergicな混合物は記憶に留めておいたら良い。慢性睡眠障害の場合、抗うつ薬のトラゾドン(1日あたり25〜150 mgの用量)、ドキセピン(10〜150 mg )1日当たり7.5〜30mgのミルタザピン、1日当たり10〜150mgのトリミプラミン(就寝1〜3時間前に投与する必要があります)。これらの薬剤は主にヒスタミンH1受容体拮抗作用を示し、部分的に抗コリン作動作用を示し、濫用の可能性はないとされている。抗ヒスタミン剤はほとんどが市販薬であり、ジフェンヒドラミン(25〜50mg /日)、ドキキシルアミン(25~50mg /日)、ヒドロキシジン(37.5~75mg /日)、プロメタジン(25~200mg /日)。主にセロトニン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬は不安障害患者に適用する。ベンゾジアゼピン撤退中にメラトニンが睡眠を改善するという非常に控えめな証拠があるが、その使用はベンゾジアゼピン拮抗薬フルマゼニルのゆっくりとした皮下注入の使用と同様に大部分が実験的である。しかしフルマゼニルの使用は、発作や精神病などのリスクもある。遅発性の長時間作用型ベンゾジアゼピン類による「ベンゾジアゼピン置換」の一種も議論されているが、その使用を支持する臨床的証拠は不足している。
     
    ベンゾジアゼピン依存症の精神療法
    プライマリケア(簡単なアドバイスと情報リーフレットの提供)によって、ベンゾジアゼピン使用の最初の減量には手助けになる。心理教育(すなわち、長期ベンゾジアゼピン使用の影響とリスクに関する情報の提供、代替療法)はしばしば治療における最初のステップとなるが、心理社会的アプローチも欲しいところである。サイコセラピーによるアプローチには3つのゴールがある;離脱の促進、節欲の大義、潜在的な障害の治療である。
    一般的に薬剤使用による治療も多くのエビデンスがある。例えばProchaskaとVelicerのトランスセオリアモデルに基づく技法、つまり動機づけのためのインタビューのようなもの。それは患者に薬剤使用の長所も短所も理解させ、退薬に至るまでのバランス感覚と意義発見を養わせるためのもの。患者自身による自信と希望はよい結果に結びつく関連性はある。しかし重度の患者となると、心理社会的アプローチが功を奏したというエビデンスはまずないし処方薬依存にたいする様々なセラピーがうまく効いた、という調査研究もほんのわずかだ。
    認知行動療法はベンゾジアゼピン依存症の治療において強力な役割を果たす。この治療アプローチは多くの技術を取り込み、学習理論と行動理論の要素を組み合わせている。認知行動療法は直接的な変化をサポートし、社会的ストレス要因に対処し社会的スキルの訓練、ベンゾジアゼピン再服薬リスクの管理などソーシャルスキルを培うトレーニングを提供する。トレーニングの内容には社会的能力訓練、リラクゼーション技術、不安を克服するための訓練、および他の行動療法アプローチが含まれる。また、投薬の理由と経験、リスク状況に対する対処や期待に応えることへの不安をどう扱うかに焦点を当て、病原性の関係パターンや未解決の精神的葛藤にも取り組む。認知行動療法はベンゾジアゼピン依存症に最も広く使用されている治療である。しかしながら、無作為化されたコントロール試験では心理療法なしでうまくコントロールしながらベンゾジアゼピンを15ヶ月間テーパリングするほうが、ケア単独または認知行動療法よりはるかに優れていた。この研究では短期断薬率は29〜36%であったが10年断薬率は59%であった。
    薬物使用障害におけるもっともメタな分析はどうしてもアルコールや「違法」薬物に焦点を当てている。段階的な減薬に心理的アプローチをあてることは、日常的な介護よりは効果的である。ホームドクターによるケアもよろしい。ベンゾジアゼピン依存症患者への心理社会的アプローチに対する最近のCochrane分析では、合計1666人を対象とした25件の研究が含まれている。ここから2つの分析が行われた;1つは認知行動療法+ベンゾジアゼピンのテーパリングvsテーパリングのみ。もうひとつは積極的な面談vs通常のケア。簡単に言えば、認知行動療法+ベンゾジアゼピンのテーパリングは短期間以上(3ヶ月~)のあいだのベンゾジアゼピン減薬に有効であるが、6ヶ月以上のテーパリングには効果がない。そして積極的な面談は減薬の効果には意味がない。
    ベンゾジアゼピン依存症の治療を受けている患者の予後はかなり良い。しかし潜在的に精神疾患があるかどうかによって、追加の治療が必要である可能性がある。動機づけ技法は入院中の減薬患者に特に有用である(とくに低用量の場合)。ほかには、自己制御訓練、ベンゾジアゼピンの欲求を誘発する状況に焦点を当てたイメージトレーニング、家族療法、あまりないけれども、自我および人格発達の基礎的な葛藤および欠損に焦点を当てる精神力学的指向治療など。米国では12段階治療が頻繁に行われているが、世界の他の地域ではあまり一般的ではなくベンゾジアゼピン依存症にはほとんど使用されません。多くの治療法は様々な治療法の取捨選択である。不安障害などの精神障害者にとってはベンゾジアゼピンの自己投薬を禁止することは大きなことです。精神力学的および精神分析的指向療法は、薬剤依存の治癒には失敗した試みといまは理解されている。これらの治療法は、欲求不満、貧弱な問題解決能力、および負の感情に耐えられないことに対処するものである。セラピーは障害または機能不全の家族関係のなかにいる患者に焦点を当て、関係を調整、コントールする試みである。心理教育は投薬の影響と副作用に関する情報を提供するし、セルフコントロールのテクニックもあるけども。
    非薬理的なアプローチ、とくに刺激を避けることと睡眠の制限、そしてより少ない程度で睡眠衛生教育(定期的な睡眠パターンを維持し、週に定期的にリラックスし、就寝前に刺激物や大食を避けるよう教える)は睡眠障害には効果的だ。ベンゾジアゼピン減薬に伴う睡眠障害にも使える。ある研究では、睡眠評価と睡眠衛生(毎晩同じ時間に寝ること、昼寝を避ける)、刺激のコントロール(静かで快適な寝室、ベッドでテレビが見えず、照明もない)、行動療法(患者の有効睡眠時間を一定の時間内に固定する)睡眠制限手技、進行性筋弛緩などの弛緩技術、および認知治療などが1年以上つづければ長期催眠薬使用中の不眠症に有効である。
    依存予防
    ベンゾジアゼピン鎮静薬使用患者の経験からのシステマティックな考察からは、ベンゾのより安全な処方、というテーマの示唆に富んでいる。それは睡眠障害への効果、セルフケア戦略の失敗、その他もろもろとの関連性、という世知辛く難しいテーマです。
    2~3か月、ときにはさらに長い投薬・増薬はぜったい避けるべきだ。特に睡眠障害を有する患者では連続投薬ではなく頓服が望ましい場合がある。治療の適応、投薬の遵守、多剤処方の回避、および治療の適時中止(通常は4〜6週間以内にとどめる)は重要だ。高リスクグループには、アルコール依存症や薬物依存症、慢性疾患(特に疼痛症候群)、慢性睡眠障害、人格障害、気分変調などがある。重大な問題は明確な症状がない高齢患者の長期処方を避けることである。
     
    臨床実践の結論
    ベンゾジアゼピン依存性の患者では、薬物離脱に対するエビデンスに基づく治療基準が存在する。たとえ患者が雑多な混合要素を持ったグループであったとしてもだ(TABLE 5 ベンゾジアゼピン(BZD)離脱の管理 - 治療基準の簡潔な一覧)。心理療法では、情報と心理教育を提供する認知行動療法や動機づけのアプローチが良いとするエビデンスが存在する。通常の治療アプローチの予後もまあまあ良い。同時に、臨床的観点からすべてのケースでベンゾジアゼピンからの退薬が必要というわけではない。退薬へのモチベーションが低い患者、重症うつ病または他の重大な精神障害を有する患者では離脱治療を開始する前に安定化が必要である。患者が重篤な精神病理学的症状を有する場合、プロセスがしばしば数週間続き、患者および医師にとって時には苦痛を伴うことから、離脱の試みは控えたい。また、睡眠薬に長期間、低用量依存する高齢者では退薬を達成するのが難しい場合があります。退薬がむつかしい場合はリスク低減策として減薬でもよいかもしれない。
    とにもかくにも、ベンゾジアゼピン離脱と退薬についてはあきらかにさらなる研究とエビデンスが必要である。


    著者によってディスクロージャーフォームが提出されています。
    Soyka博士は、Lundbeck、Indivior、Novartis Pharmaceuticalsからのコンサルティング料金、Mepha Pharma、Lundbeck、Indiviorからの講演料、およびLundbeckからの旅行サポートを受けていると報告しています。この記事に関連する利益相反は報告されていません。
    Jacquie Klesing、E.L.S.に原稿の編集を手助けしてくれたことに感謝します。


    (翻訳&注釈:ベンゾジアゼピン情報センター 管理人
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    ※ 管理人注1: PETによる測定についてなにか手掛かりがあったのかSoyaka博士に聞いてみたが「結果は正直いってかんばしくない」とのことでした。
    ※ 管理人注2: このメカニズムについては一部の精神的渇望を発生する精神依存患者にはあてはまるが、身体依存患者には説明不足のように思われます。ベンゾジアゼピンによる構造的なニューロン損傷と遺伝子発現変性について以下の医学論文をご覧ください。
    論文:Protracted Withdrawal Syndromes From Benzodiazepines
    論文:Regulation of GABA A Receptor Subunit Expression in Substance Use Disorders
    ※ 管理人注3: この減薬ペースはあまりにも早すぎる旨、Soyaka博士に問い合わせました。「たしかにさらにゆっくりとしたペースが良いに越したことはないが、morbid focusがハードルになるのでこのペースを推奨するものである」とのことでした。morbid focus、おそらく「うんざり」「げんなり」といった意味合いかと思われるが、明確な意味は不明。


    著者:マイケル・ソヤカ博士 Michel Soyaka Ph.d
    マイケル・ソヤカ博士 Michel Soyaka Ph.d

    ドイツおよびスイスマリンゲン在住。ミュンヘンのルートヴィヒマクシミリアン大学教授、およびベルナウのキームゼーブリックメディカルパーク精神科医、心理療法医。